連携と目的の不可分な関係

最近このblogを閲覧しているとお聞きした方に数人会いました。ところが2024年の春にホームページのサーバーの入れ替えをした際に、以前の投稿がなくなってしまった。改めて古いものになりが、再び投稿することにした。

約16年前、診療報酬で「地域連携パス※(地域連携診療計画管理料)」に大腿部頸部骨折に加え、脳卒中が追加された。

つまり地域連携とは、自分の病院で治療を完結せず、次の段階でのサポートが得意な病院へ患者を移動させ、一つの病院だけではなく、地域の多くの病院があたかも一つの大きな病院のごとく協力し合う仕組みと考えていいだろう。ところで「地域連携」という語はこの辺りから全国で使用されるようになった。しかしこの仕組みが成立するためには、患者の診療基準と診療計画を標準化し、これを引き継ぐ「ルール」を関係機関が守っていることが大前提である。連携とはこのルールを守ることを言うのであり、最近「あの病院とは連携出来ているから紹介できる」といった「知り合い」や「協力」を指して使用ものではないと言える。

医療介護連携の観点からすると、地域にある多様な医療機関と介護事業所のそれぞれが自分達がケアしたい対象者のみを選び、それ以外は関係ないという態度を決め込むというバラバラの方向性ではなく、地域の多くの対象者が困っている「間(はざま)の課題」に気がつき、この課題の解決という同一の目標へ向かってお互いに協力し合うことが医療介護連携である。よく知った相手だから連携しているのではない。両者の間に地域の課題という共通の目標を認識しているかどうかが「連携しているかどうか」の一丁目一番地だ。

そうすると自らの都合だけで事を進められなくなる。連携を進めることは少しずつ相手や対象者の存在によって私達が今までの取り組みから少しずつ「変わっていこと」が必要になる。

このことについて9年前、札幌市介護支援専門員連絡協議会へ述べたものを発見したので多少古いが掲載しておく。

★★★★★★★★

連携とは「変わる」こと

ケアマネSAPPORO 第89号(2014.8.1発行)へ掲載

【入院日数の短縮と在宅医療の推進】

 介護保険制度ができ15年が経った。私が1998年に介護支援専門員試験を受験した当時は「制度あってサービスなし」などと揶揄されたものだ。現在はどうだろう。格段にサービス種類と量が増え、選択肢が増えた。介護支援専門員の皆さんが利用者や家族のニーズを的確に捉え、代弁してきた証だと言える。活動を1999年から開始した貴会の先見性と行動力に感服し、敬意を表する次第である。

 2025年問題とは、高齢化率の増加、社会保障財源の確保と介護サービスの質という三つの要素の組み合わせとバランスをどう決着つけるかの問題である。欠かせないのは、要介護者の生活機能の維持を支える医療とのかかわりだ。医療保険制度も大胆な方策が実施されている。介護支援専門員の方と密接に関係するものは2つある。入院日数の短縮と在宅医療の推進だ。

【入院期間短縮に対応した既成概念の打破】

 入院日数の短縮化とは「早く治して早く退院する」指向だ。急性期では疾患別のクリティカルパス(治療計画書)に基づき、治療手順は標準化されている。つまり「入院時に退院日が決定する」のだ。在院日数が長期化すると医療機関の収入は減少する。医師の胸三寸で治療計画が決められていた時代は過ぎた。今は「診断と治療計画への適応」に主眼が置かれ、あとは予定した計画に対する「実行(Do)」が病院内で粛々と展開される。

 予定通りに治療とその結果が進めば問題はない。しかし相手は高齢者である。入院中に合併症が生じたり、認知機能が低下したりする。高齢者の入院にはリスクが伴う。「早く治して早く退院する」ことを医療機関と介護支援専門員が協力する新しい展開がこれから更に求められる。

 当協会(北海道医療ソーシャルワーカー協会)が2012年に介護支援専門員の皆さんを対象とした調査*1 によると、退院前に医療機関から介護支援専門員へ連絡が無かった割合(退院連絡漏れ率)は全道44%に対し、札幌市では38%であった。数値の高低に関する評価は別にして、これをゼロにしていく取り組みが必要だと個人的には考えている。では連絡が漏れている方々はどんな方なのか。私は「要支援」の方だと思っている。つまり「病院は要支援を見つけられない」のではないかということだ。例えば月間1,000名以上の入退院がある大病院では、連携室の看護師やソーシャルワーカーは要支援者を見つけられない。いや「見つけられない」というより「そこまで手が回らない」という言い方が正確な表現だ。絶対的なマンパワーが足りないのだ。ではどうしたらいいか、足寄町の取り組みがヒントになる。

 足寄町では、二次・三次救急患者は町から65キロ離れた帯広市内へ搬送される。従来、治療は終了しても医療機関との連絡調整が不十分だった。そのため町内の特養待機者は100名を超えていた。ところが平成20年より、足寄町国保病院の連携室や町内の地域包括支援センターから帯広市内の医療機関へ直接訪問し、医療機関の求めに応じ、早期から相談調整を開始した。その結果急性期病院から自宅への直接退院が増加。特養待機者も減少したというのだ。医療機関から早く連絡を受け、町の地域包括支援センターが出張って退院調整に取り組んだ結果である。連携とは「方法の変更」ではなく「既成概念の打破」である。

 医療機関から早くに連絡をもらうにはどうしたらいいか。退院可能な日から逆算して医療機関に出向き、退院調整期間を拡大する仕組みをつくることだ。入院期間の短縮が求められる医療機関に対し、介護支援専門員側から協議を持ちかける絶好の時期が今、到来している。

  医療機関側からの連絡を待つ受動姿勢から能動的に医療機関へ入り込んでいく「変化」が求められるだろう。これに関しては貴会と共に、当協会も積極的に医療機関からの早期の連絡、連絡漏れゼロを目指した活動をしたいと考える。

【在宅医療の推進と越境する専門性】

 退院調整と並び重要なのが在宅医療の推進だ。こちらは入院治療と異なり、日常的な高齢者特有の疾患に予防的に対応することが求められる。対象疾患は尿路感染症、肺炎や脱水などだ。在宅医療は急性疾患に対する治療より、健康状態を長く続けるための予防的対応に尽きる。よく聞く悩みは訪問診療医がいないとか、在宅を理解してくれる医師が少ないなどだ。しかし在宅医療は医師だけが主だとは思わない。確かに医師は在宅医療の要であるが、何もかにも医師へ相談したら医師の身がもたない。私は訪問看護師と薬剤師の知識と技術を大いに活用すべきだと思う。

 私達の地区(北見市)では昨年、介護支援専門員の方を対象に「ケアプランに活かせる使える医療情報講座」*2 を開講した。医師、薬剤師、看護師、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、ソーシャルワーカーらを講師に、医療機関から提供される医療情報を効果的にケアプランへ活用することを目的とした研修会である。特に介護支援専門員の方に好評だったのは「薬に関する相談を調剤薬局へしてもいいことが分かった」であった。剤形の見直しや薬の影響による心身機能の変化を医師に相談する前に調剤薬局の薬剤師に相談できること、相談方法も伝授した。「(薬剤師は)今後相談しやすい社会資源として活用できる」と好評であった。訪問看護師の講義後のアンケートでは「看護師や医療職が見るフィジカルポイント、医療職が知りたい情報、伝える方法のポイントを私達が知ることは有効だ、何を見ればいいか分かった」と好評であった。連携とは「役割の分担」ではなく「越境する専門性」である

【おわりに】

医療と介護の連携が重要と言われる。何故連携が重要と言われるのか。それは人口減少と高齢化が進み、国の財源が不足するなかで、限りある医療介護資源を最大限活用しつくすことが絶対必要だからだ。そのためには今までの方法では通用しないことを自覚すべきだと思う。制度が求めているのは、接点の乏しかった他職種(医療職)と協働した結果、医療介護分野の費用対効果が高まることだ。介護支援専門員がさらに重要な位置づけを獲得するためにはこの医療職との協働への努力が必要だ。どうすればよいのか。まず病院のソーシャルワーカーが地域との窓口となり、介護支援専門員と協力して早期の退院支援を行うことだ。

  次に介護支援専門員はケアプラン作成過程で避けていた医療面の問題について「どこから分からないか」を見定めることだと思う。連携とは自分から積極的に「変わる」ことだから。

*1「退院時連絡(医療機関から介護支援専門員へ)調査」第一報  (北海道医療ソーシャルワーカー協会 HP より)

*2「ケアプランに活かせる使える医療情報講座」 (北見市医療福祉情報連携協議会 HP より)

http://www.kitamaru.net/

掲載はこちら

https://sapporo-cmrenkyo.jp/wp-content/uploads/2019/10/089_20140801.pdf

令和6年度 北見市医療福祉情報連携協議会 市民フォーラムの参加者を募集いたします

テーマ:人生の最終段階における医療とケアの意思決定を考える

日時:令和6年10月19日(土)13:30~15:00 (開場13:00) 
場所:北見市民会館小ホール (北見市常盤町2丁目1-10)
主催:北見市医療福祉情報連携協議会、北見市、北見市医療・介護連携支援センター
後援:北見医師会、北見保健所、国立大学法人北見工業大学社会連携推進センター
対象:一般市民、医療介護関係者
参加費:無料
定員:会場150名、オンライン参加100名(先着順で締め切ります)
申し込み締め切り日 令和6年10月10日(木)まで

●インターネットによる申し込み
https://forms.gle/3evAKaigQ5k5oHcq7(Googleフォームが開きます)
●電話による申し込み
協議会事務局 (北見医師会)へ電話して、氏名、参加方法、連絡先をお伝え下さい。
℡ 0157-23-2787

開催趣旨
超高齢社会の到来により高齢者の救急搬送数が増加しています。その中で自宅や施設で最期まで療養することを希望する本人の病状が急変した際に、本人の意思に沿わない救急搬送も増加しています。本人の病状、希望する療養場所や延命措置に対する希望のみならず、日頃より「どのような生き方を希望するか」をご家族や友人らと話し合っておくことが大切です。
北見市では、本人の希望する医療やケアの意思が尊重されるための課題と解決策を検討する会議が令和5年より開始され、医療機関、消防組合や医療・介護団体から構成される会議にて、関係機関間の連携体制の構築に取り組んでいます。
この度、こういった取り組みの紹介とともに、本人の病状が急変した際にどのようなことが起きているか、医師や救急隊の取り組みをお知らせし、その備えについて市民の皆さんと考えます。

内容
Ⅰ報告:本人の希望する医療やケアの意思が尊重されるための取り組み
●北見市における在宅医療と救急医療の課題
  北見市医療・介護連携支援センター センター長 関 建久氏
●北見地区消防組合における心肺停止事案の現状と課題
  北見地区消防組合 消防本部 救急企画課 課長 今村 照正氏
Ⅱ講演(50分)
●医師からみた人生の最終段階における医療とケアの意思決定
  講師:医療法人 オホーツク勤労者医療協会 オホーツク勤医協北見病院 院長 菊地 憲孝先生

第3回北見市医療と介護の実践報告会へお申込みください

北見市では令和6年度の在宅医療・介護連携推進事業として標記を開催いたします。住民の「住み慣れた地域で暮し続けられる」という目標を共有し、医療機関と介護事業所等の各サービスが協力した実践を報告し合い、相互の課題を理解して協力体制を高めることを目的に開催するものです。

日 時:令和6 年10月 19日(土)15:30~17:30 (120分)
会 場:北見市民会館 小ホール (北見市常盤町2丁目1-10) 市民フォーラム終了後実施予定
対象者:北見地域で医療機関、在宅や介護保険事業所等で働く医療職・介護職・行政職など
参加費:無料
定 員:250 名(対面150名 オンライン100名)
申し込み:以下のURLよりお申込みください(Googleフォームが開きます)
https://forms.gle/G8VLvQRCAT7aa38N7
締め切り:令和6年10月11日(金)
報告演題:8題
抄録:以下のURLよりご覧頂くことができます。
https://www.nouge.gr.jp/center/info/20241019-2.pdf

演題名(上記URLで抄録を確認できます)

  1. 介護の重度化予防に資する通所介護領域での関わりの実践(通所介護 理学療法士)
  2. 利用者の安全を守るために私たちができること(老健 介護福祉士)
  3. 当施設における口腔ケアの取り組みについて(特別養護老人ホーム 歯科衛生士)
  4. 透析中の運動療法の取り組みについて~始めてみよう!透析患者さんの運動療法~(病院 理学療法士)
  5. その人らしく最期を迎えるために(病院 外来看護師)
  6. 認知症利用者に対するケアマネジメントと多職種連携の課題(居宅介護支援事業所 介護支援専門員)カテゴリー「入退院支援」
  7. 身寄りのない経済的困窮者の生活再建に向けた支援(病院 医療ソーシャルワーカー)
  8. 地域で繋ぐACP 〜その人の今の気持ち〜(病院 外来看護師)

なお、本報告会の先立ち、同会場で13:30より市民を対象としたフォーラムが開催されます。

日時:令和6年10月19日(土)13:30~15:00 (開場13:00) 
場所:北見市民会館小ホール (北見市常盤町2丁目1-10)
内容:
Ⅰ報告:本人の希望する医療やケアの意思が尊重されるための取り組み(10分×2名)
北見市における在宅医療と救急医療の課題
  北見市医療・介護連携支援センター センター長 関 建久氏
北見地区消防組合における心肺停止事案の現状と課題
  北見地区消防組合 消防本部 救急企画課
Ⅱ講演(50分)
医師からみた人生の最終段階における医療とケアの意思決定
  講師:医療法人 オホーツク勤労者医療協会 オホーツク勤医協北見病院 院長 菊地 憲孝先生

お申込みはこちらから(Googleフォームが開きます)

https://forms.gle/3evAKaigQ5k5oHcq7

新潟県在宅医療推進フォーラムで講演します

 令和6年9月28日(日)に開催される「新潟県在宅医療推進フォーラム」(第16回在宅ケアを考える集いin越後2024)にて、基調講演をさせて頂きます。テーマは「地域共生社会の実現に向けた医療介護連携とは」です。

 大規模の講演は久しぶりで緊張します。北見市での医療介護連携の取り組みを紹介しながら、少しでも新潟県の関係者の皆様にお役に立てるよう頑張ります。
講演にあたり抄録を書きましたので以下にご紹介します。


 地域共生社会や地域包括ケアが叫ばれている理由は総人口の減少、とりわけ生産年齢人口の減少だと私は考えています。医療・介護サービスの担い手が減少するからです。これへの対策には3つの方向があると思っています。

 まずはICTやロボットなど、テクノロジーの活用です。オンライン診療の充実やベッドの見守りセンサー活用が挙げられます。さらにケアマネジメントにおけるモニタリングもオンラインが認められました。私の所属する法人でも対話型AIを活用した社会的フレイル解消の取り組みに協力しています。私はこの方面の専門ではありませんので驚き、期待するばかりです。

 次に医療・介護関係者、多職種間における利用者の課題・目標共有ツールとしての「適切なケアマネジメント手法[i]」の活用です。この手法はケアマネジャーの知見が体系化された実践知を整理したものです。ゆえに医師や看護師など他の職種にも示しやすくなり、結果的に医師や看護師らはケアマネジャーが何を聞きたいかが分かります。互いの知識の差異を埋め、素早く利用者支援へ結びつけることができます。

 最後が最も重要です。それは患者さんや利用者にとっての意向の達成です。多職種連携が重要だと言われますが単に多職種が関り、利用者のすべき暮らしを推奨することではありません。自宅で暮らしたいとか、孫の成長を近くで見ていたいなど、患者さんや利用者にとって個別性の高い「望む生活・暮らしの意向の把握と尊重」を踏まえた多職種ケアチームが知恵を出し合い実現する取り組みです。

 私が在宅医療・介護連携推進事業を開始したのは令和元年度ですがその10年前から三次医療圏に渡る脳卒中地域連携パスや、北見市における地域全体の入退院連絡ルール定着の活動[ii]に取り組んできました。最近では適切なケアマネジメント手法を活用した多職種連携の取り組み[iii]を実施しています。その結果行き着いたのが、前述した患者さんや利用者にとっての意向の達成でした。そう考えるとその大前提に「望む生活・暮らしの意向の把握と尊重」を面接・対話によりしっかり把握、理解しておくことが重要となります。これは医療ソーシャルワーカーやケアマネジャーの専売特許とされてきました。しかしながら今や多職種がこのテーマに強い関心を持ち始めています。疾病管理からみたヒトの身体は客観的に共通する部分が多くあります。しかし「まあまあましな人生を送れているな」と本人が感じる主観は高い個別性を持ち、千差万別です。この講演を通じ、医療介護連携のコーディネート技術をはじめ、クライエントファーストの多職種ケアチームへの指向が高まるきっかけになることを望みます。


[i] 適切なケアマネジメント手法の策定、普及推進に向けた調査研究事業  ㈱日本総合研究所 (2024年4月5日)

https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=107661

[ii] 地域全体で取り組む入退院連絡ルールづくり (北見市医療・介護連携支援センターHP)

 地域全体で取り組む入退院連絡ルールづくり – 医療介護支援センター長の情報発信 (nouge.gr.jp)

[iii] ケア目標立案のための取り組みは徹底した本人との面接から始まる  (同上)

ケア目標の共有が医療・介護連携の出発点 – 医療介護支援センター長の情報発信 (nouge.gr.jp)


「適切なケアマネジメント手法多職種セミナー」を開催します

多職種連携における適切なケアマネジメント手法の活用方法についてのセミナーを開催します、是非ご参加ください。


「適切なケアマネジメント手法」は、要介護高齢者の状況や疾患群に応じて「想定すべき支援の仮説」を体系的に整理することにより、将来の生活予測におけるケアマネジャーの知識水準を確保すること、多職種連携の推進を目的としています。

北見市では令和4年度にケアマネジャーを対象に適切なケアマネジメント手法実践研修を行い、令和5年度は自立支援型地域ケア個別会議に適切なケアマネジメント手法を活用しています。令和6年度では適切なケアマネジメント手法を活用したケアプラン支援事業を実施予定となっています。

この度令和6年度北見市在宅医療・介護連携推進事業として、ケアマネジャーおよび多職種を対象とした標記セミナーを開催いたします。多職種連携推進の橋渡しとなる本手法を多くの方にご理解いただくべく開催いたします。多くの方のご参加をお待ちしています。


日時:令和6年6月21日(金)18:15~20:00
場所:北見市役所5階 505会議室(オンライン可)
内容:多職種連携における適切なケアマネジメント手法の活用方法、その他
対象:医療専門職および本手法の実践研修が未修了の介護支援専門員
定員:会場40名、オンライン100名
費用:無料
講師:日本総合研究所 齊木 大様

昨年度の適切なケアマネジメント⼿法の多職種セミナーの様子

第3回 医療と介護の実績報告会の演題募集が始まりました

医療と介護の実践報告会は、超高齢化と人口減社会を迎え、住民の「住み慣れた地域で暮し続けられる」という目標を共有することを目的に、医療機関等と介護事業所等の各サービスが協力した実践を報告し合い、相互の課題を理解して協力体制を高め、住民も含めた共生社会の実現を目指します。参加者から大変好評であった第3回目となる本報告会を今年度も開催いたします。まずは報告会の演題の募集のご案内です。多くの皆さんの演題申し込みをお待ちしています。なお、報告会の参加者募集は8月中旬の予定です、改めてご案内いたします。

第2回報告会の様子

【第3回医療と介護の実績報告会】
日時:令和6年10月19日(土)15:30~17:00
会場:北見市民会館 小ホール
対象者:北見地域の医療・介護職など
参加費:無料
定員:250 名(対面150名 オンライン100名)


【演題の応募要領】
演題募集数:6演題(口述8分+質疑2分)
応募締切:令和6年8月2日(金)
発表スライド締切:令和6年9月30日(月)
申し込み方法:以下のリンク、北見市医療・介護連携支援センターのホームページ、または右記のQRコードより、必要事項をご記入下さい。
申し込みフォーム:(Googleフォームが開きます)
https://forms.gle/73WroinHUgcHEPEq8

【実施要項】こちらからご覧ください。

過去の抄録集はこちらから

在宅医療・介護連携コーディネートの進め方

介護新聞連載の第14回です。在宅医療・介護連携推進事業におけるコーディネーターの関わりその3、在宅医療・介護連携コーディネートの進め方です。
いよいよ連載も最終回です。今回は在宅医療・介護連携推進事業のコーディネーターとしてどのように事業を進めるとよいかについてお話しします。在宅医療・介護連携推進事業の手引きにも同様のことが記載されていますが、より現場感のある方法をご紹介します。コツは「感染者を増やせ」です。紹介する図の手順でご紹介します。

【地域の困りごとに気づく】
まずいわゆる地域の課題の発見と活動を選択する作業です。コーディネーターとして何に取り組んだらよいか分からないという方はほとんどいないでしょう。何かしらの「これは問題だなぁ」といった課題をお持ちだと思います。例えば「疾病の悪化で入退院を繰り返している人がいる」心不全、脱水や転倒を繰り返している人などです。また医療機関を退院した患者さん。自宅へ帰り「やれやれ」とばかりにソファーで横になってばかり。廃用症候群が進みADLが低下した際に、もきちんとリハビリして回復させてくれる場所少ないとか、認知症でBPSDが強くなった方をケアしてくれる場所がない(少ない)などがあるでしょう。さらに地方ではあるあるですが、都市部の病院へ入院すると地元へ帰ってこない方が一定数います。こういった「地域の困りごと」のことです。注意するべきは既にこの連載の第12回目「在宅医療・介護連携推進事業におけるコーディネーターの関わり」で述べましたが、「関係者の困りごと」にならぬように注意が必要です。さて、この気づきはご自分だけが感じているのでしょうか。他の方も感じているかどうか、是非話し合いをしてみて下さい。研修会や会議、アンケート調査を実施してもいいでしょう。地域の関係者が感じている困りごとを広く集めてみて下さい。

【困りごとがホントかどうかを確かめる】
次に感じた困りごとがホントかどうかを確かめます。関係する方へ聞き取りをしてもいいですし、調査を実施してもいいでしょう。前項の「地域の困りごと」から例を挙げましょう。心不全のステージ C (器質性心疾患あり、症状あり)の再入院患者数を調べる。そのほかでは、要介護認定の悪化者数とその方のリハビリサービスの有無を調べたり、都市部へ入院した患者さんが地元へ退院してきているかを調べるのがいいでしょう。つまり、コーディネーターの感覚や経験的な「地域の困りごと」がホントかどうかを確かめるのです。調べることで困りごとの程度を数字で表すことができますし、活動を進めていくなかで活動の成果としても評価、確認することができます。活動を測れるようにすることが活動を停滞させず、仲間の動機づけを維持する上で重要です。私は「Googleフォーム」をよく活用しています。メールで対象者へ調査用のURLを一斉送信できますし、回答も表計算のシートが自動的に集計できます。なにより無料なのが魅力です。調査を実施したら集計です。さて、困りごとはホントでしたでしょうか。調査前に立てた仮説の通りでなかったとしても大丈夫です。その調査で分かるのは困りごとの程度ですので、あまり深刻でない場合は焦らず取り組んでもいいテーマですので安心してください。集計後は分析を行い、困りごとの程度と困っている人の大まかな人数、つまり「量」を把握します。仲間でこの分析と対応方法を計画してみて下さい。この段階はまだまだPDCAの「P」の入口に過ぎません。

【困りごとを皆に知らせて感染させる】
さていよいよ取り組みの開始です。今回ご紹介する手順のうちの最も重要な段階です。調べた結果をまとめ、医療介護関係者が集まる場所を設定し、報告するのです。報告のあと「ほっておいていいのでしょうか」というメッセージを投げかけるとともに「このままだと大変」と参加者が思ってくれることが肝です。調査結果で具体的な数字や量が示せると参加者の納得度が高まります。報告のあとも重要です。事前に準備していた「とりあえずの解決策」を提案して参加者から意見を聞くのです。「こんな方法がありますが、他にもあるでしょうか是非教えてください」というスタンスです。課題が明確で、対象者の量が具体的ですので、参加者も解決方法の意見を多く教えてくれるでしょう。私の連携の師匠は「活動テーマを自分事として感じ、協力者をどのくらい増やせるかだ」とおっしゃっていました。つまり「活動に協力する感染者を増やす」のです。その後、協議の結果出された意見を「皆の意見が反映された解決策」として実施することを宣言します。コーディネーターは市町村等でその役割を与えられている方ですので宣言する「資格」があります。この時に単にコーディネーターの宣言に留まらず、市町村(行政)としても宣言してもらえると活動に公的な裏付けが与えられます。北見市は必ずそのようにしています。行政が宣言する意義は極めて高いのです。会の最後には「解決へ向けた取り組み」に協力してくれるメンバーを募ります。この場合、感染者(熱意のある人)が応募してきます。ところで、ある研修会で参加者から「熱意のない人をどう巻き込むか」という質問を頂きました。私の回答は、熱意のない人は機会を狙い「助けてもらう」です。このスタンスでゆっくりじわじわ多くの人を巻き込みます。この段階でやっとPDCAの「P」が終わります。

【皆の意見が反映された解決策を実施する】
ここまで来ると私の感覚では取り組みの8割が終わりです。タイトルの通り、あとは皆の意見が反映された解決策を粛々と実施します。前の例で考えてみましょう。心不全の悪化で入退院を繰り返している人がいるという課題に対する解決策の手順例です。まず、ケアマネジャーを対象に心不全患者の再入院数(割合)を調べます。要介護者しか対象にできませんが、手っ取り早く調べられます。次にその結果を基に、医療機関に対し再入院の原因、理由を確認する会議やヒアリングを実施してはどうでしょう。心不全患者の再入院防止は医療機関にとっても課題意識と関心の高い出来事です。きっと協力してくれるでしょう。その上で、ケアマネジャーに対し、再入院を防ぐコツを伝える研修会を医療機関と共同で企画、実施してはどうでしょうか。内容としては、医療関係者より心不全の病態、再入院原因の紹介や再入院防止のケアプランが上手なケアマネジャーの取り組みを紹介します。また、病態変化の際に相談できる医療機関の相談ルールを医療機関と協議し、ケアマネジャーへ周知するというのはどうでしょう。ここは地域の事情に応じたやり方がいろいろあります。重要なのは感染者を広げ、皆で何とかしなければならないといったムーブメントを作りだすコーディネーターの黒子としての活動です。この段階がPDCAの「D」にあたります。

【解決へ向けた取り組みをメンテンナスする】
さて、活動を進めていくと時間の経過とともに感染者も少しずつ熱い思いが沈静化していきます。これは避けられません。活動を維持していくためにはメンテナンスが必要です。まずしなければならないのが、定期的に「解決へ向けた取り組み」の経過を多くの関係者へ報告することです。本連載の第4回目「地域全体で取り組む入退院連絡ルールづくり」で紹介しましたが、北見市では入退院連絡調査を毎年実施して、連絡率の高低を確認するとともに入退院連絡のルール変更の必要性を協議しています。この活動例でいくと、心不全患者の再入院数(割合)でしょう。毎年の調査で、例えば単身の心不全患者さんの再入院率が極めて高かったとします。思い当たる原因や傾向について、ケアマネジャーや医療機関の担当者と協議するのはどうでしょう。こういった取り組みの修正や変更について意見を聞き、微調整を行う作業がメンテナンスにあたります。PDCAの「C」にあたります。前年度に比べ、再入院率はどのように変化したかなどをチェックすることで活動が進展している実感をメンバーに持って頂くことができます。

【解決へ向けた取り組みをPDCAにこじつける】
以上の繰り返しを実施していく訳ですが、コーディネーターを悩ますことがあります。そう在宅医療・介護連携推進事業の手引きではPDCAサイクルで取り組めという「指令」がありました。でもご安心ください。今回私が紹介した手順を踏めばすぐに書くことが可能です。但し、活動の開始時点ですべてのサイクルを記述することはできません。なぜならこの手順は仲間とともに協議しながら進めていくので、スタートの段階ではすべて見通した上では始められないのです。でも大丈夫です。最初の年は難しくても2年目の活動からはしっかり書くことができます。最初の年は「とりあえずの計画」でいいのです。かといってくれぐれも「とりあえず」とは書かないでくださいね。

【まとめ】
いかがでしたでしょうか。仲間を感染させ、協議しながら修正する。協議する過程は「仲間づくり」にもなっていくのです。活動計画の最初は「とりあえず」ですが、取り組んだ経過を後からでよいのでPDCAにあてはめてみると形になります。こじつけ上等です。翌年度からは恰好つきますのでご安心ください。まずは「仮のPlan」と「仮のDo」で始めてみましょう。取り組むうちに「仮」がなくなります。

最後にコーディネーターとしての私の実感をお伝えして14回の連載を終えたいと思います。在宅医療と介護のうち、優先度の高いのが医療よりも「介護」です。利用者の暮らしを維持するために生活サービスである介護サービスを維持することが最も重要です。他者の手助けを必要とする方が在宅で暮らせる方法を考えることが第一です。在宅介護(在宅生活者)のないところに在宅医療はありえないからです。各地で旺盛な医療介護連携が進むことを願います。短い期間でしたが、連載をお読み頂きありがとうございました。お問い合わせは当センターのホームページに記載のメールアドレスからお願いいたします。

北極星を眺めつつ電信柱を立てる

在宅医療・介護連携推進事業におけるコーディネーターの関わり、第2回目です。今回は「北極星を眺めつつ電信柱を立てる」です。先回りして結論を言うと、地域包括ケアの実現という北極星を眺めつつ、在宅看取りを希望する人数を把握するといった「電信柱」をいっぱい立てて活動を具体化しましょうというお話しです。

【北極星と電信柱】

私がコーディネーターとして大切にしている考え方があります。それは神田橋條治さんという方が「精神科診断面接のコツ(追補)」という著書で、夢(北極星)と目標(電信柱)の関係について書かれたものです。少し長い引用ですがお許しください。

在宅医療・介護連携推進事業にかかわらず、何かを計画して実行する活動における夢と目標についての関係が書かれています。私たちは地域包括ケアという決してたどり着くことのできない「北極星」へたどり着こうとして疲れ果てていないでしょうか。20階のビルに一気に駆け上がる活動計画を立てていないでしょうか。神田橋先生は「歩いているときの電信柱」でよいとおっしゃっています。

【電信柱の立て方】

コーディネーター活動のコツは地域課題を操作定義して目標を達成する記述にすることと前回お話ししました。これは「電信柱」のことです。今回はその電信柱を見える場所に順番に置いてみようという提案です。例として「本人の希望するところで看取りができる」で考えてみましょう。(図1)

まずは現在の在宅看取り数の把握が必要です。活動を進めるにあたっての出発点となります。自宅で亡くなっているのか、または特別養護老人ホームや自宅ではない在宅(サ高住)なのかを把握するでしょう。次に在宅看取りを希望していても叶わない方がいます。施設等での看取りであっても、医師の訪問診療が受けられないために、急変して救急車を要請していることなどがあるからです。そういった小さな数を把握する方法を順番に積み上げていくのです。その一方で在宅看取りを選択肢として持てるということを住民含め、医療・介護関係者が知ることが必要になります。いわば地域におけるACPの推進です。第9回と第10回目でお話ししましたが、特別養護老人ホーム入所時に認知症が進行して入所後に施設における意思決定支援が進まないという現状などがあり、入所前の在宅生活時からのACPの取り組みも進めることが必要です。電信柱は無数にとまでは言いませんが、柱の間隔を小さくすると数多く立てることが可能となります。どんな電信柱を立てるか、数は幾つ必要か、順序はどのようにするか、どのくらいの期間で隣町(次の段階)かなど、こういったことを地域の多くの協議体で検討していくのがいいでしょう。「北極星」という決してたどり着かない目的に対し、目の前にあって到達したことが分かるもの、この「電信柱」こそ私たちが取り組むものとなります。こんなイメージです。(図2)

【問いの立て方を「逆さま」にしてみる】

もう一つ紹介しましょう。多くのコーディネーターを悩ますのが「住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続ける」という命題です。問いを逆さまにすると「住み慣れた地域で暮らし続けられていない人はいるか」という表現になります。また「地域の目指すべき姿とは何か」という問いの場合は「最低限この地域でこれがないとまずいものは何か」になるでしょう。漠然とした課題を逆側から見て問い直すという作戦です。この問いを展開する例をご紹介しましょう。まず、この地域で最低限これがないとまずいものは何かの例として「医師の診療が受けられること」を考えてみましょう。本連載の第8回目で「医療介護連携における通院困難者の課題解決を考える」をお話ししましたが、まさにこの取り組みです。まずは、医師の診療が受けられない人はいるのか(対象)を把握します。ひっそり施設へ入所していたり、転居していたりする方がいるでしょう。次にどのくらいの人数がいるのかの量を把握します。また医師の診療が受けられない人はどこでどうやって暮らしているのかも気になります。恐らくご家族や知人の助けで「何とか通院」しているのでしょう。その上で、今後、同様の人は増えそうか (見込み、人口動態)や、どうやるとこれらが把握できるか(調査方法)が挙げられます。次に、暮らせていない人は実際にいるのかどうか(我々だけの印象なのかどうか)。さらに「ギリギリ暮らせている人」はどう暮らしているか実例を調べたうえで、どのくらいの人数がいるのかの量を調査します。その上で、暮らせていない理由(資源量や構造)は何か。どうやるとこのことが把握できるか(調査方法)などが考えられます。

いかがでしょうか。要は課題をそのまま眺めるのではなく、手にとって四方八方眺めたり、こねくり回してみるのです。コーディネーターは課題を「誰よりも斜めに見る力」が求められていますが、こういった方法も是非取り入れてみて下さい。

参考文献

『精神科診断面接のコツ(追補)』 神田橋 條治著 岩崎学術出版社、1984年(追補版1994年)

ケア目標の共有が医療・介護連携の出発点

介護新聞連載の第1回です。
この度北海道医療新聞社が発行する「介護新聞」の連載をすることになりました。
忘備録として、このブログでも紹介したいと思います。

北見市で在宅医療・介護連携推進事業を受託している関と申します。このコーナーでは医療介護連携のコーディネーターとして活動して感じたことや取り組みを紹介していきます。第1回目は「ケア目標の共有が医療・介護連携の出発点」です。連携には協力し合う目的が不可欠であり、目的達成のために互いに協力しあうことが必要だというお話しをします。

【地域包括ケアとは現状をなるべく維持していくこと】
私が在宅医療・介護連携推進事業を担当する以前から「連携の師匠」と呼ぶ方がいます。彼が言いました。「地域包括ケアとは、今とは違う何か新しいパラダイスや桃源郷を目指すイメージで語られているがそうではない。現状をなんとかして維持していくことだ。」目からウロコが落ちました。地域包括ケアの目標は障害や介護を必要とする状態になっても住み慣れた地域で暮らし続けられること。地域包括ケアが実現したあかつきの状態とは、医療機関とケアマネジャーが密接に協力し合う。サービス調整に困ることがない。必要なリハビリテーションが受けられる。多職種間の連携が進み、介護状態が悪くなりにくい地域が誕生する。こんな風に私は思っていました。今とは違う地域の様子です。しかし現実的に考えると、これは極めて実現可能性の低い出来事であることに気づきます。夢見るという意味でパラダイスです。生産年齢人口の減少と85才以上の高齢者の増加で、現状ですら不足している介護サービスは益々不足し、対象者は増加します。地域包括ケアとは、まだ見ぬパラダイスという夢を目指すのではなく、今あるサービス量をなんとか維持していく工夫と知恵を現実的に考え抜くということでした。

【軽度者の介護は住民に任せ、中重度者の介護は介護職が担う】
この師匠を昨年北見市へお呼びし、地域支援事業の担当者を対象に研修会を開催しました。テーマは「総合事業の深い活用法-ケアマネ・在宅介護職不足の軽減のために-」です。研修会では大阪府のとある市の総合事業を紹介して頂きました。とりわけ住民主体の体操教室や生活支援サービスを推進する取り組みです。その市の狙いはこうでした。「軽度者(要支援から要介護2まで)の介護は住民に任せ、中重度者の介護はプロである介護職が担う。その分だけ不足する介護職でも多くの中重度者を介護する。」という戦略です。人口12万人の大阪のその市では、住民主体の体操教室は実に250ヶ所以上あり、毎週開催され、そのすべてが住民により主体的に運営されていました。元気な住民は認定こそ受けていないものの要介護(と思われる)住民を体操教室へ連れ出し、その傍らゴミ出しも手伝うなどの住民主体の生活支援サービスが盛んに行われています。しかも移送は自治体の補助のある住民ボランティアの完全送迎付きです。軽度者の介護は住民に任せる。まさに「今あるサービス量をなんとか維持していく工夫と知恵」でした。在宅の介護職、ケアマネジャー不足を解消する方法は二つあります。彼らを増やすという方法と、増えなくても、少ない職員で何とかやりくりするという方法です。現実的には後者の方法しかありませんが、前者の解決(介護職の増員)にこだわっている地域が多いのではないでしょうか。要介護認定率は多くの市町で20%前後であることを考えると、残りの80%の元気な高齢者を活用する知恵は、決してコロンブスの卵ではありません。将来の地域課題をリアルに受け止め、取り組む決断の賜物だといえるでしょう。

【要支援者の予後予測を基にした介護予防ケアプラン支援】
北見市の要介護認定更新結果から驚くべきことが分かりました。令和4年度に要介護認定を更新した方のうち、要支援者の約54%が以前の認定結果から悪化していたのです。疾病の悪化、配偶者の死別、居住環境の変化など原因は多岐に渡るでしょう。その原因の一つは身体機能を維持するために必要な活動量が確保されず、廃用症候群が進行したのではないかというのが私の推察です。要支援認定された方は認定を受けた現在の身体状態でケアマネジャーの前に現れます。多くのケアマネジャーは認定以前の過去の生活の様子を把握します。しかし「将来どの程度まで認定前の元気な身体状態に戻れるのか。そのためにどの程度の活動量が必要か、またどんな運動方法が適切か。」といった未来の達成可能なADLを予測し、その方法を考えるのは困難です。訪問リハビリを利用しない前提でケアマネジャーが気軽に理学療法士などのリハビリテーション職へ相談する機会はほぼありません。また札幌市を中心とした都市部ではリハビリテーション職が潤沢に働いていますが、人口1万人以下の地方の町村ではあまり働いていません。介護予防といいながら従来型の通所介護へ通っているのが現状ではないでしょうか。その結果、充分な活動量が確保されず、改善の伸びしろの大きい要支援者が重度化してしまうことは問題です。リハビリ専門職の大いなる活用が望まれるとともに、ケアプラン立案の際にケアマネジャーが相談できる仕組みが求められます。北見市では令和4年度に北海道理学療法士会道東支部の協力を得て、「リハビリテーション前置による重度化予防ケアプラン支援事業(略称:リハ前置ケアプラン支援事業)」(図1、図2)を実施しました。

これはケアマネジャーと理学療法士が書面を通じ、利用者の予後予測と機能訓練の方法と評価をアセスメントの前段階(リハビリ前置)で助言を受ける仕組みです。活動の結果、ケアマネジャーから「自信をもって利用者へ説明できた」、「利用者の身体機能改善を利用者とともに確認することができた」などの意見が聞かれました。最も我々が注目した結果は「利用者との信頼関係が高まった」というケアマネジャーからの意見です。ケアマネジャーが利用者とともに同じ目標を立て、モニタリングを行い、利用者とともに結果を評価するという過程を通じ、より両者の信頼関係を高めることが確認されました。

【目的や目標を共有しない「連携」はない】
やっと今回のテーマにたどり着きました。連携とは「二人以上の主体が同じ目的を持ち、互いに協力し合うこと(広辞苑)」です。相手の組織を訪れて「これから連携しましょう」と言う際の連携は「協力しましょう」という意味の「連係」であり「連携」とは似て異なります(連係プレーなどとも言いますね)。つまり連携を実行する際は必ず協力し合う目的が存在します。認知症があり、一人暮らしは難しい利用者がいたとします。利用者本人の強い希望が「施設に入らず出来るだけ長く自宅で暮らしたい」場合、これがこの利用者の支援の共通目的となります。長く自宅で暮らすことを維持するため、多職種間で互いに何をどう行い、どんな協力を実施するかというケアやリハビリテーションの方法と役割を明確にしていく作業が「連携」と言えるでしょう。ここでいう目標とはケア目標に他なりません。在宅で生活する要介護者のケア目標の主たる柱がケアマネジャーの立案するケアプランです。これを補強していくケア計画が通所介護計画や、訪問看護計画と言えるでしょう。そこで重要となるのがケア目標です。しかしこのケア目標の立案が実はまた一苦労です。この目標設定があいまいだと連携もあやふやなものになります。次回はこのケア目標立案のための取り組みについてご紹介します。