在宅医療・介護連携推進事業におけるコーディネーターの関わり、第2回目です。今回は「北極星を眺めつつ電信柱を立てる」です。先回りして結論を言うと、地域包括ケアの実現という北極星を眺めつつ、在宅看取りを希望する人数を把握するといった「電信柱」をいっぱい立てて活動を具体化しましょうというお話しです。
【北極星と電信柱】
私がコーディネーターとして大切にしている考え方があります。それは神田橋條治さんという方が「精神科診断面接のコツ(追補)」という著書で、夢(北極星)と目標(電信柱)の関係について書かれたものです。少し長い引用ですがお許しください。
「夢と目標は違う。夢は大きく、目標は小さく。夢は例えば北極星のようなもの。北という方向がどちらかを私たちに知らしめてくれる。もし北極星がなかったら、たとえば航海しているときに、船がどちらの方向に向かっているのか見失ってしまうだろう。しかし北極星があれば、今東へ向かっているな(中略)ということが分かる。そして自分は北へ行きたいならずっと進んでいけばいい。そうしたら目的地へ着くだろう。ただし、一生航海していたとしても北極星に着くことは絶対にない。(中略)しかし北極星は私たちに方角を示してくれるという点で、とても大事なものである。夢を近くにもってくると逆にまずい。北極星は遠いところにあるから、ちゃんといつも北を示し続けてくれる。夢を近くに置くと、ちょっと自分の位置が変わると、夢の方角がずれてしまう。だから夢は大きく、遠くに。それに対して、目標は小さく、すぐそこに見えるもの。到達したことがわかるもの。たとえば、歩いているときの電信柱みたいなもの。」
在宅医療・介護連携推進事業にかかわらず、何かを計画して実行する活動における夢と目標についての関係が書かれています。私たちは地域包括ケアという決してたどり着くことのできない「北極星」へたどり着こうとして疲れ果てていないでしょうか。20階のビルに一気に駆け上がる活動計画を立てていないでしょうか。神田橋先生は「歩いているときの電信柱」でよいとおっしゃっています。
【電信柱の立て方】
コーディネーター活動のコツは地域課題を操作定義して目標を達成する記述にすることと前回お話ししました。これは「電信柱」のことです。今回はその電信柱を見える場所に順番に置いてみようという提案です。例として「本人の希望するところで看取りができる」で考えてみましょう。(図1)
まずは現在の在宅看取り数の把握が必要です。活動を進めるにあたっての出発点となります。自宅で亡くなっているのか、または特別養護老人ホームや自宅ではない在宅(サ高住)なのかを把握するでしょう。次に在宅看取りを希望していても叶わない方がいます。施設等での看取りであっても、医師の訪問診療が受けられないために、急変して救急車を要請していることなどがあるからです。そういった小さな数を把握する方法を順番に積み上げていくのです。その一方で在宅看取りを選択肢として持てるということを住民含め、医療・介護関係者が知ることが必要になります。いわば地域におけるACPの推進です。第9回と第10回目でお話ししましたが、特別養護老人ホーム入所時に認知症が進行して入所後に施設における意思決定支援が進まないという現状などがあり、入所前の在宅生活時からのACPの取り組みも進めることが必要です。電信柱は無数にとまでは言いませんが、柱の間隔を小さくすると数多く立てることが可能となります。どんな電信柱を立てるか、数は幾つ必要か、順序はどのようにするか、どのくらいの期間で隣町(次の段階)かなど、こういったことを地域の多くの協議体で検討していくのがいいでしょう。「北極星」という決してたどり着かない目的に対し、目の前にあって到達したことが分かるもの、この「電信柱」こそ私たちが取り組むものとなります。こんなイメージです。(図2)
【問いの立て方を「逆さま」にしてみる】
もう一つ紹介しましょう。多くのコーディネーターを悩ますのが「住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続ける」という命題です。問いを逆さまにすると「住み慣れた地域で暮らし続けられていない人はいるか」という表現になります。また「地域の目指すべき姿とは何か」という問いの場合は「最低限この地域でこれがないとまずいものは何か」になるでしょう。漠然とした課題を逆側から見て問い直すという作戦です。この問いを展開する例をご紹介しましょう。まず、この地域で最低限これがないとまずいものは何かの例として「医師の診療が受けられること」を考えてみましょう。本連載の第8回目で「医療介護連携における通院困難者の課題解決を考える」をお話ししましたが、まさにこの取り組みです。まずは、医師の診療が受けられない人はいるのか(対象)を把握します。ひっそり施設へ入所していたり、転居していたりする方がいるでしょう。次にどのくらいの人数がいるのかの量を把握します。また医師の診療が受けられない人はどこでどうやって暮らしているのかも気になります。恐らくご家族や知人の助けで「何とか通院」しているのでしょう。その上で、今後、同様の人は増えそうか (見込み、人口動態)や、どうやるとこれらが把握できるか(調査方法)が挙げられます。次に、暮らせていない人は実際にいるのかどうか(我々だけの印象なのかどうか)。さらに「ギリギリ暮らせている人」はどう暮らしているか実例を調べたうえで、どのくらいの人数がいるのかの量を調査します。その上で、暮らせていない理由(資源量や構造)は何か。どうやるとこのことが把握できるか(調査方法)などが考えられます。
いかがでしょうか。要は課題をそのまま眺めるのではなく、手にとって四方八方眺めたり、こねくり回してみるのです。コーディネーターは課題を「誰よりも斜めに見る力」が求められていますが、こういった方法も是非取り入れてみて下さい。
参考文献
『精神科診断面接のコツ(追補)』 神田橋 條治著 岩崎学術出版社、1984年(追補版1994年)