ケア目標の共有が医療・介護連携の出発点

介護新聞連載の第1回です。
この度北海道医療新聞社が発行する「介護新聞」の連載をすることになりました。
忘備録として、このブログでも紹介したいと思います。

北見市で在宅医療・介護連携推進事業を受託している関と申します。このコーナーでは医療介護連携のコーディネーターとして活動して感じたことや取り組みを紹介していきます。第1回目は「ケア目標の共有が医療・介護連携の出発点」です。連携には協力し合う目的が不可欠であり、目的達成のために互いに協力しあうことが必要だというお話しをします。

【地域包括ケアとは現状をなるべく維持していくこと】
私が在宅医療・介護連携推進事業を担当する以前から「連携の師匠」と呼ぶ方がいます。彼が言いました。「地域包括ケアとは、今とは違う何か新しいパラダイスや桃源郷を目指すイメージで語られているがそうではない。現状をなんとかして維持していくことだ。」目からウロコが落ちました。地域包括ケアの目標は障害や介護を必要とする状態になっても住み慣れた地域で暮らし続けられること。地域包括ケアが実現したあかつきの状態とは、医療機関とケアマネジャーが密接に協力し合う。サービス調整に困ることがない。必要なリハビリテーションが受けられる。多職種間の連携が進み、介護状態が悪くなりにくい地域が誕生する。こんな風に私は思っていました。今とは違う地域の様子です。しかし現実的に考えると、これは極めて実現可能性の低い出来事であることに気づきます。夢見るという意味でパラダイスです。生産年齢人口の減少と85才以上の高齢者の増加で、現状ですら不足している介護サービスは益々不足し、対象者は増加します。地域包括ケアとは、まだ見ぬパラダイスという夢を目指すのではなく、今あるサービス量をなんとか維持していく工夫と知恵を現実的に考え抜くということでした。

【軽度者の介護は住民に任せ、中重度者の介護は介護職が担う】
この師匠を昨年北見市へお呼びし、地域支援事業の担当者を対象に研修会を開催しました。テーマは「総合事業の深い活用法-ケアマネ・在宅介護職不足の軽減のために-」です。研修会では大阪府のとある市の総合事業を紹介して頂きました。とりわけ住民主体の体操教室や生活支援サービスを推進する取り組みです。その市の狙いはこうでした。「軽度者(要支援から要介護2まで)の介護は住民に任せ、中重度者の介護はプロである介護職が担う。その分だけ不足する介護職でも多くの中重度者を介護する。」という戦略です。人口12万人の大阪のその市では、住民主体の体操教室は実に250ヶ所以上あり、毎週開催され、そのすべてが住民により主体的に運営されていました。元気な住民は認定こそ受けていないものの要介護(と思われる)住民を体操教室へ連れ出し、その傍らゴミ出しも手伝うなどの住民主体の生活支援サービスが盛んに行われています。しかも移送は自治体の補助のある住民ボランティアの完全送迎付きです。軽度者の介護は住民に任せる。まさに「今あるサービス量をなんとか維持していく工夫と知恵」でした。在宅の介護職、ケアマネジャー不足を解消する方法は二つあります。彼らを増やすという方法と、増えなくても、少ない職員で何とかやりくりするという方法です。現実的には後者の方法しかありませんが、前者の解決(介護職の増員)にこだわっている地域が多いのではないでしょうか。要介護認定率は多くの市町で20%前後であることを考えると、残りの80%の元気な高齢者を活用する知恵は、決してコロンブスの卵ではありません。将来の地域課題をリアルに受け止め、取り組む決断の賜物だといえるでしょう。

【要支援者の予後予測を基にした介護予防ケアプラン支援】
北見市の要介護認定更新結果から驚くべきことが分かりました。令和4年度に要介護認定を更新した方のうち、要支援者の約54%が以前の認定結果から悪化していたのです。疾病の悪化、配偶者の死別、居住環境の変化など原因は多岐に渡るでしょう。その原因の一つは身体機能を維持するために必要な活動量が確保されず、廃用症候群が進行したのではないかというのが私の推察です。要支援認定された方は認定を受けた現在の身体状態でケアマネジャーの前に現れます。多くのケアマネジャーは認定以前の過去の生活の様子を把握します。しかし「将来どの程度まで認定前の元気な身体状態に戻れるのか。そのためにどの程度の活動量が必要か、またどんな運動方法が適切か。」といった未来の達成可能なADLを予測し、その方法を考えるのは困難です。訪問リハビリを利用しない前提でケアマネジャーが気軽に理学療法士などのリハビリテーション職へ相談する機会はほぼありません。また札幌市を中心とした都市部ではリハビリテーション職が潤沢に働いていますが、人口1万人以下の地方の町村ではあまり働いていません。介護予防といいながら従来型の通所介護へ通っているのが現状ではないでしょうか。その結果、充分な活動量が確保されず、改善の伸びしろの大きい要支援者が重度化してしまうことは問題です。リハビリ専門職の大いなる活用が望まれるとともに、ケアプラン立案の際にケアマネジャーが相談できる仕組みが求められます。北見市では令和4年度に北海道理学療法士会道東支部の協力を得て、「リハビリテーション前置による重度化予防ケアプラン支援事業(略称:リハ前置ケアプラン支援事業)」(図1、図2)を実施しました。

これはケアマネジャーと理学療法士が書面を通じ、利用者の予後予測と機能訓練の方法と評価をアセスメントの前段階(リハビリ前置)で助言を受ける仕組みです。活動の結果、ケアマネジャーから「自信をもって利用者へ説明できた」、「利用者の身体機能改善を利用者とともに確認することができた」などの意見が聞かれました。最も我々が注目した結果は「利用者との信頼関係が高まった」というケアマネジャーからの意見です。ケアマネジャーが利用者とともに同じ目標を立て、モニタリングを行い、利用者とともに結果を評価するという過程を通じ、より両者の信頼関係を高めることが確認されました。

【目的や目標を共有しない「連携」はない】
やっと今回のテーマにたどり着きました。連携とは「二人以上の主体が同じ目的を持ち、互いに協力し合うこと(広辞苑)」です。相手の組織を訪れて「これから連携しましょう」と言う際の連携は「協力しましょう」という意味の「連係」であり「連携」とは似て異なります(連係プレーなどとも言いますね)。つまり連携を実行する際は必ず協力し合う目的が存在します。認知症があり、一人暮らしは難しい利用者がいたとします。利用者本人の強い希望が「施設に入らず出来るだけ長く自宅で暮らしたい」場合、これがこの利用者の支援の共通目的となります。長く自宅で暮らすことを維持するため、多職種間で互いに何をどう行い、どんな協力を実施するかというケアやリハビリテーションの方法と役割を明確にしていく作業が「連携」と言えるでしょう。ここでいう目標とはケア目標に他なりません。在宅で生活する要介護者のケア目標の主たる柱がケアマネジャーの立案するケアプランです。これを補強していくケア計画が通所介護計画や、訪問看護計画と言えるでしょう。そこで重要となるのがケア目標です。しかしこのケア目標の立案が実はまた一苦労です。この目標設定があいまいだと連携もあやふやなものになります。次回はこのケア目標立案のための取り組みについてご紹介します。

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