【退院前の連絡が医療機関から無い原因はケアマネジャーの「連絡なし」だった】
私たちが入退院時の連絡ルールに取り組み始めた平成21年。ケアマネジャーの皆さんは当時、退院前に医療機関から事前に連絡が来ないことを嘆いていました。医療機関から連絡がないため退院後すぐに介護サービスの調整ができず、一週間後に連絡を受けたケアマネジャーが自宅へ急いで訪問すると入院前より機能低下している利用者を発見することがありました。病院と在宅の連携強化を感じた出来事です。そこで私たちはまず実態を把握するため、居宅介護支援事業所のケアマネジャーを対象に退院前に医療機関から連絡が来たかどうかの調査を行いました。併せて担当する利用者が入院した際、在宅の状況を医療機関へ連絡しているかどうかもケアマネジャーへ尋ねました。回答率は94%で、多くのケアマネジャーが協力してくれました。調査の結果、退院前に医療機関からケアマネジャーへ連絡が来た割合は46%でした。しかし我々をもっと驚かせたのは利用者が入院した際、医療機関へ連絡をしていたケアマネジャーは41%しかいなかったのです。入院時に連絡していないのに退院前に連絡を寄こせとは道理が立ちません。医療機関へ連絡が欲しいと要望する前にケアマネジャー側の関わりも問われた結果となりました。
【医療機関はちゃんと退院前連絡をしている「つもり」だった】
私たちは作戦の練り直しを迫られます。まずは医療機関の退院支援担当者とケアマネジャーが一同に集まり、調査結果を説明し、現状を共有する会議を開催しました。北見市の特徴は、この会議の参集を呼びかけたのが「北見市(行政)」だったことです。これについては後述します。さて、会議では調査結果を報告しました。ケアマネジャー側は医療機関側に対し、入院時には医療機関へ連絡するので退院前に連絡が欲しい旨を伝えました。医療機関側は理解を示しつつもその回答は驚きでした。一つ目は「担当ケアマネジャーが誰か分からない」です。入院患者に担当ケアマネジャーを尋ねても回答できる患者さんがあまりいない。回答があってもその方は担当のホームヘルパーだったなど、連絡をしたくても分からなかったのです。二つ目は「ケアマネジャーはなぜ担当利用者の入院に気づかないのか」です。医療機関とケアマネジャーの間の溝が見えた瞬間です。互いに怠けている訳ではありません。しっかり仕事をしているのに互いの存在を知る仕組みがないことに気付かされたのです。この対処は協議を進めたのち「介護保険証にケアマネジャーの名刺を入れておく」、「医療機関側からケアマネジャーへ連絡をもらう」ことになりました。めでたし、めでたし。いえいえここで終わりません。医療機関からの次の発言でまたまた驚かされました。それは「私たちはきちんと退院前にケアマネジャーへ連絡をしている」と認識していたことでした。確かに介護が必要な患者さんにはしっかり連絡は来ていました。しかし前述の調査結果では要支援1から要介護1くらいまでの軽度の患者さんは見落されていたのです。でも医療機関側は「ちゃんと連絡している」と考えていました。これでは連絡が来ないはずです。現在、多くの医療機関は診療報酬で「入退院支援加算」を届け出ており、そんな発言は聞かれません。しかしその当時この加算はなく、医療機関では入院患者が介護保険サービスを受けているかどうかを確認するルールがなかったのです。
【ケアマネジャーと医療機関との協議の繰り返し】
こうして医療機関とケアマネジャーが互いに見落としている様々な溝が明らかとなりました。ここからがコーディネーター役となった北見市(行政)の出番です。両者が一同に会する会議を開催するのみならず、互いの言い分をしっかり聞くため医療機関のみ、ケアマネジャーのみを対象とした会議を繰り返し、課題解決の知恵と工夫を協議しました。例えばケアマネジャー側の会議では、前述した医療機関の意見である「担当ケアマネジャーが誰か分からない」に対する解決方法として「介護保険証にケアマネジャーの名刺を入れておく」や、「退院前に欲しい情報は何か」、「退院の何日前に連絡が欲しいか」などを検討しました。医療機関側の会議では「入院時に欲しい在宅生活の情報」、「利用者が入院したことは、医療機関からケアマネジャーへ連絡が欲しいと言っているが可能か」などを協議しました。互いが直接同じ会議の場で意見交換することも可能ですが、コーディネーターである北見市はあえて別々の会議の場を設定し、それぞれの言い分をしっかり聴取し、連携協議を行った上で両者合同の会議に臨んだのです。連携協議とは、互いの言い分を吐き出させ、相互に相手の言いにくいことを受け入れ、妥協点を見つける作業のことです。連携の当事者に対し、連携調整者であるコーディネーターの最も重要な役割はこの連携協議にあるでしょう。課題解決へ向けたこの協議を何度も繰り返し、ようやく平成28年の北見市における入退院連絡の地域ルールにこぎ着けたのでした。
【継続のためのメンテナンスと退院前ギリギリ調整】
せっかく出来上がったルールも時間とともに風化します。また制度変化による新しいルールへの変更も必要です。北見市では平成28年にルールを開始してから「入退院連絡率調査」を毎年実施しています。互いの連絡率も少しずつ高まり、令和5年度の退院前連絡率は過去最高の90%を超えるまでになりました(図1)。
また、毎年の調査では退院前連絡率を医療機関ごとに集計しています。残念なことに医療機関別の結果を公表するにはまだ至っていません。しかし、退院前連絡率も多くの医療機関で高まっていることから公開できる日も近いでしょう。こうして継続して調査を実施し、結果を共有することが定期的なルール維持への動機づけとメンテナンスになります。現在の課題は医療機関がケアマネジャーへ退院前連絡をする日が徐々に短くなり、退院直前になっていることです。(図2)
ケアマネジャーは退院5日位前の連絡を希望していますが、実際の連絡日は退院2~3日前となっています。医療機関の平均在院日数の短縮化により、退院日が直前に決まることが原因と思われます。これを解決していくには医療機関内で医師による退院の決定に先立ち、そろそろ退院が近そうだと退院支援担当者が判断した際はケアマネジャーへ連絡してもよいという医療機関内のルールを作ることが求められます。つまり医師が退院を決定する前に、コメディカルが「そろそろ退院しそうだからケアマネジャーへ連絡しておこう」という判断を医療機関や医師が許可することです。これは医療機関ごとの機能や文化、組織体制に大きく影響されます。ケアマネジャーが連絡を受けても退院前ギリギリだとすぐに介護サービスが調整できませんので何とかしなければならない課題です。今後はこの問題を「退院前ギリギリ調整」と名付け、患者さんや利用者にとって忌避すべきことであることを今後、医療機関とケアマネジャーとの連携協議の会議の場で共有していきたいと思っています。