介護新聞連載の第11回と第12回「在宅医療・介護連携推進事業におけるコーディネーターの関わり」その1です。紙面では2回に分けて掲載されました。ここでは一つにまとめます。
第1回目は「地域課題を操作定義して、活動目標を具体化する」です。
在宅医療・介護連携推進事業は全道すべての市町村で実施されていますが、その多くが地域包括支援センターや自治体直轄などで実施されています。医療と介護の連携を考える上で、医療機関の仕組みや役割を知っている者の方がコーディネーターとしては課題を見つけやすいといえるでしょう。今回から在宅医療・介護連携推進事業におけるコーディネーター活動のコツを3回紹介して私の連載を終えたいと思います。第1回目は「目標を操作定義して、活動を具体化する」です。
事業の手引きは「指令書」ではなく「事業費付きの小道具集」
この連載の第1回目にご紹介した私の「連携の師匠」のこと、覚えていらっしゃるでしょうか。またまた今回も登場です。国から降りてくる事業が各自治体で活かせない原因を彼はこう分析しています。「初心者は道具に使われる、道具は使うもの。」道具とは国から発出された事業の手引きやガイドランのことです。
在宅医療・介護連携推進事業では令和2年9月に厚生労働省から「在宅医療・介護連携推進事業の手引きVer.3」が発出されました。師匠の言う道具とはこの手引きの(ア)から(ク)にあたります。「地域の医療・介護の資源の把握」「医療・介護関係者の研修」や「在宅医療・介護関係者に関する相談支援」など8つの事業項目が必要な基本的事項として提示されています。(図1)
彼は事業担当者が道具に使われている原因を、事業項目を「指令書」のごとく真面目にかつ忠実に従い過ぎているからだと言います。「素晴らしい指令書を事業項目ごとに縦割りに丸呑みし、指令書を一字一句読み解き、記載通り実践してしまう。その結果ほぼ失敗し、自分が未熟だからと自分を責めている。」と分析しました。
ではどうしたらよかったのでしょうか。彼は続けます。「所詮手引きは事業費付きの小道具集。法律の範囲内でどう使おうと自由と考える。その上で指令書は取り扱い説明書として一応、しっかり読む。」とのことです。つまりその事業が目的とすることをしっかり踏まえた上で、わが町の課題解決として事業を使いなさいということです。
他の先進地域で実践された取り組みは確かに参考にはなります。しかし紹介されている取り組みは単なる「小道具」と理解しましょう。ゆえに当該事業の目的である「医療と介護の両方を必要とする状態の高齢者が、住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができる」ために私たち自身の地域の課題を解決るというスタンスで取り組めばよいのです。
道内の市町村で実施されている在宅医療・介護連携推進事業の取り組みを、幾つかの自治体のホームページで検索してみて下さい。冒頭に述べた8つの事業項目ごとに記述されている自治体が多いことに気付くでしょう。真面目な事業担当者は間違わないように「手引き」に従って進めようとします。その結果、事業項目に取り組んでも何かうまくいっていない、といった感想を幾つかの自治体担当者からお聞きしました。前述の「在宅医療・介護連携推進事業の手引きVer.3」には小道具である在宅医療・介護連携推進事業の8つの事業項目とその使い方が書いてあるのみで「何を課題に、何を目標にするか」は書かれていません。ですので自治体が実施する事業の活動目標を曖昧にしたまま、手引きに示されている道具につい飛びついてしまうのだと思います。
厚生労働省の名誉のため付け加えますが、手引きVer.3には「本事業の構造や進め方についての理解が不足している状況もみられ、8つの事業項目を行うこと自体が目的になっているのではないかとの指摘もある。」と厚生労働省も告白しました。「地域の目指す理想像として、切れ目のない在宅医療と在宅介護の提供体制の構築を目指す」ことが大切だと改めて事業目的の重要性を強調しているのです。
抽象的な地域課題を取り扱い可能な目標へ変換する
さて、事業目的と手引きの関係が分かったところで安心してはいられません。「切れ目のない在宅医療と在宅介護の提供体制の構築」という抽象的な目的を地域で具体的に展開しなければなりません。ここからが本番です。でも何から手を付けていいのか分からない方も多いでしょう。すぐに研修会を開催したり医療介護資源のマップづくりという「小道具」に手を出したくなります。ここは我慢です。繰り返しになりますがこれら8つの事業項目は活動の小道具であり方法です。
まずはこの事業の目的を達成するための具体的な活動目標を決めなければなりません。旅行に例えるなら、出かける際の目的地を決めることに似ています。目的地が決まると何で移動するかを考えるでしょう。飛行機で行くかJRにするか、自動車で行くか、徒歩でいいのかなどが導けます。目的地が具体的であればあるほど活動方法が明確になり、進め方に迷いが少なくなります。私の経験から具体的な活動目標を作るための3つのコツを紹介します。
課題を操作定義して活動目標にする
1つ目は目標が曖昧なまま活動を開始しないことです。活動目標を操作定義するとは、課題解決を目標にするのではなく、目標を達成する記述に変換することです。
皆さんも多くの地域で課題を探る研修会を開催し、多職種によるグループワークを実施しているでしょう。ここで出される意見は非常に重要な課題や情報です。しかしこの課題をそのまま活動目標にしてはいけません。抽出される課題には「病院とケアマネジャーの連携が悪い」「在宅看取りが少ない」など、具体的なようでいざ活動しようとするとどうしていいか分からない漠然としたものとなっていることに気づくでしょう。課題をそのまま目標にする例を挙げれば「病院とケアマネジャーの連携をよくする」という表現になるでしょうか。まだまだ先の例で挙げた目的地は明確になっていません。なぜなら連携がよくなっている状態が(とりあえずでも)決まっていないからです。
そこで課題を操作定義してみましょう。「病院からケアマネジャーへ退院前連絡が来る割合を80%にする」という表現がこれにあたります。どうでしょうか。目的地が明確になった気がしませんか。活動目標を操作定義するということはこういうことです。もちろん連絡割合以外の目標もあるでしょう (これは今回このあと3つ目の「視点を切り替える」でお話しします)。すると操作定義したこの目標を達成するには次にどうしたらいいかすぐに思い浮かびませんか。例えば、今の連絡率は何%なのか、連絡率が低い病院や連絡がこない医療機関側の理由は何なのかなど、何を調査してどう取り組めばよいかすぐに思い浮かぶでしょう。
操作定義のコツは、達成した状態や結果が誰の目にも明らかになるように「数えられる、測れる」ようにすることです。またどのくらい増えたか、減ったかなど増減の考え方を用いると活動が進展していることが実感でき、活動に自信が持てるようになります。参考までにある研修会で参加者から寄せられた課題と困りごとに対する操作定義への私からのヒントをまとめたものを紹介しておきます。(図2)
地域の医療介護関係者にとっての課題ではなく、地域や住民の課題を扱う
2つ目は地域や住民の課題に取り組むことです。皆さんの地域でも多職種が集まり在宅看取りや入退院時の連携などの課題を抽出する研修会が行われていることでしょう。こういう機会は多くの職種の視点の異なる課題が集約できます。どんな課題が皆さんから語られているでしょうか。前述の研修会で参加者から出された意見の一部を紹介します(図3)。
同じように見える課題でも一つの基準を設けて区分してみました。そうです、地域の課題と医療介護関係者にとっての課題です。多職種の集まりで課題を聞くと、連携がうまくいかないとかサービスが使いづらいなど、「医療介護関係者にとっての課題が出ることがあります。これを否定する訳ではありませんが、事業の活動目標として私はあまり相応しくないと思います。こういう場合は関係者間の連携課題の表現をもう一つ掘り下げ、関係者間における連携不調の結果、住民が受けている不利益や不都合の状態や状況を課題にする作業をしてみましょう。改めて言いますが、この事業は医療介護関係者のためではなく、地域住民のためものだからです。
問題解決から目標達成へ視点を切り替える
3つ目は「問題を解決する」のではなく「目標を達成する」視点に切り替えることです。
「心不全で入退院を繰り返す住民がいる」という問題に対し、目標は「心不全による再入院率を〇〇%へ低減する」といった感じです。問題とは通常、住民が困っていることや不利益になっていることを指しますが、目標は必ずしもその問題の表現と一致するものではありません。問題の状況と、それを解決するために設定する目標は異なります。
前述の「病院とケアマネジャーの連携が悪い」に対する目標例を「病院からケアマネジャーへ退院前連絡が来る割合を80%にする」にしてみました。果たして退院前連絡が来る割合が増加することが連携の改善になるのかどうか。これは事業コーディネーターと関係者とが協議してすり合わせて決定するものです。私の理屈から言うと、まずは連絡が来ていないなら、今年から2~3年は連絡率の増加に取り組み、連絡が来るようにする。そして4年後からは連絡内容を改善することで連携の質を向上させようと考えます。
つまり課題解決は幾つもの段階があり、一つ一つの段階を1年から2年くらいで達成していくイメージで作れば良いのです。目標は将来に対する私たちの「選択」なのです。
次回はこの目標を操作定義したあと、どのように段階を踏んで活動計画を立てるかについて書いてみたいと思います。