身寄りなしの方の支援体制整備を関係者全体の課題へ

令和7年2月26日に北見市が開催した「令和6年度 医療機関・在宅ケアマネジャー連携会議」にて「身寄りなし患者の支援課題について」をテーマとしたグループワークを当センターが担当した。参加者は医療機関の入退院支援担当者と居宅ケアマネジャーである。

そもそも今回、なぜこのテーマにしたのか。これは以下のレポートを読み、非常に危機意識を私が感じたからであった。(以下レポート要旨)

人口減社会は個人を取り巻く地域や世帯・家族の縮小をもたらすばかりでなく、高齢期の暮らしへの影響、特に健康や介護の問題が顕在化して初めて「身近で手助けする人がいない課題」に直面することに気付いたからである。現に身寄りなしで困っている方はもとより、今現在は自分自身で身の回りをことができる方であっても、将来へ向けたの支援体制を整えておかなければならない。私の仕事はこれまで医療と介護の課題を取り扱ってきたけれど、この課題は将来生まれる社会課題として直ちに取り組まなければならないテーマだと感じた。
身近で手助けする人がいない場合、医療機関においては自宅退院への選択の可能性は小さくなる。また護保険サービス契約も怪しくなる。これまで「身近で手助けする人」の存在を前提としてきたサービスの大転換が求められる。

話しを連携会議へ戻します。

連携会議で「身寄りなし患者の支援課題」を協議するにあたり、居宅ケアマネジャーを対象に身寄りのない方の入退院支援に関わる調査を行った。調査にあたり必要なことは身寄りのない方の定義だ。そこで、㈱日本総合研究所が「介護職員等における身寄りのない高齢者等に対する支援の実態に対する調査研究事業(令和6年度 老健事業)」で用いた以下の定義を活用して調査をおこなった。

調査では北見市の居宅ケアマネジャー約200人のうち55人(回答率 27.9%)から回答を得た。調査結果をまとめると以下のことが判明した。

  1. 全ケース1,543ケース数中、身寄りなしの方がいると回答のあったケースは108(6.9%)で、将来の身寄りなしを含めると179ケース(10.9%)となり、要介護ケースの約1割であった。
  2. 要介護ケースにおける単身世帯率は37.0%で、高齢者夫婦世帯は59.0%であった。
  3. 要介護ケースにおける成年後見制度の利用率は14.8%であった。
  4. ケアマネジャーの法定外業務としていつもある(月1回)程度の内容は、郵便・宅配、書類作成の代行や発送であった。
  5. 法定外業務への対応は事業所の業務が無償で実施していた。
  6. 支援が難しい人への支援の際、助けになるのは、併設する事業所や同僚であった。
  7. 入院時に保証人・緊急連絡先等を求められる医療機関が多いとケアマネジャーが回答した。
  8. 身寄りのない方が介護保険サービスを利用できるようするために、必要だと思われることで最も多かったのは「医療機関や施設が保証人がいなくても入院、入所を受け入れてくれること」であった。
  9. 身寄りのない方の支援に対し「大きな負担感がある」と回答したケアマネジャーが約7割いた。

以上の結果から「身近で手助けする人がいない課題」に直面している方は非一定数いることが判明した。
医療機関とケアマネジャーの入退院支援に関する会議ということもあり、話題はケアマネジャーの業務負担をどう解消していくかという課題もあった。これはこれで解決をしていくとして、グループワークを終え「身近で手助けする人がいない課題」の解決へは今後、以下の手順でを進めることが必要だと感じる。

現状と課題の把握
「身近で手助けする人がいない課題」は各機関(行政・医療機関・介護サービス・その他)でどのように発生しているか、またどの程度に人数がいるか。
現在行われている支援
上記の課題を各機関(行政・医療機関・介護サービス・その他)はどのように対処しているか。今後対象者が増加した場合に持続可能かどうか。
今後立案すべき支援や対策
現に「身近で手助けする人がいない課題」に直面している方に対する対策は何か。
どういった団体を構成した協議体(既存の団体を含む)でで検討していくか。
将来の「身近で手助けする人がいない」予備軍の方に対し、現在取り組めることは何か。

また、この課題に取り組んでいる地域同士の情報交換も必要だと感じる。この課題はみなに関係するが、どこが主体的に扱うかが定まっておらす、その結果誰も取り扱わずただ見過ごされてしまう。

今後はこの身寄りのない方が抱える課題を地域全体の課題として各地域で取り組んでいくことが望まれる。

参考資料:身寄りのない高齢者の生活上の多様なニーズ・諸課題等の実態把握調査(日本総合研究所 2024年04月)

令和6年度 自立支援型地域ケア個別会議の事例集を公開しました。

本事例集は北見市が主催する自立支援型地域ケア個別会議で検討された事例(18事例)を医療介護支援センターでまとめました。

地域におけるケアマネジメントの質の向上を図り、高齢者の自立支援・介護の重度化予防に資する多職種による助言を通じ、以下を達成することを目的として開催されています。
1)地域におけるケアマネジメントの質の向上
2)地域における課題の抽出
3)適切なケアマネジメント手法の普及と活用の拡大

事例集では、ケースに対する医療専門職の助言内容、ケアマネジャーの支援内容の変化、そしてその結果を記載しました。
また記載にあたり、適切なケアマネジメント手法の基本ケア項目も掲載しています。
本事例集の活用により、助言の視点や具体的方法を知ることで、多くのケアマネジャーの方の支援内容の抜け、漏れを防ぐとともに疾病等が悪化せず生活を続けられる利用者支援と多職種連携推進の一助になればと考えます。

専門性の越境は多職種連携の進展につながるか

本稿は2025.2.1に発行した北見市医療・介護連携支援センターのニュースレター第15号に掲載したもの。いままでは医療介護関係者へのインタビューを記事にしていたが、諸般の事情で関が執筆した。これまで読後の感想をいただくことはなかったのだが、今回は色々な方からご意見を頂戴した。さらに意見が欲しいという訳ではないのだが、気をよくしてこちらにも掲載する。

事例検討における職能の専門性と意見・提案
 数年前まで、多職種が集まり事例検討を行う際、私が気になっていたことがありました。それは「医師として」とか「リハビリでは」といった自己の職能を前置きする発言です。もちろん医師でない者が診断や治療をすることはできません。そうではなく、職能を前置きすることで発言を自己擁護しているような態度を感じたのです。しごくもっともな話です。医療機関内で実施するカンファレンスのように、患者さんや利用者の情報をすべて知っているわけでもなく、発言の責任を負う院内の医療チームのメンバーでもありませんから当然です。きっとそれはよく知らない患者さんや利用者に対する「遠慮」のようなものなのかもしれません。多職種が意見をいう場では恐らくこういった遠慮という「配慮」が多職種連携による各職能の知見の効果を狭めたり、もう一歩連携を進めたいのに進まない楔形(くさび)のようなものだと私は感じていたのでしょう。
 そういう意味で多機関の地域関係者が集まる事例検討の場における多職種の発言は、「意見や提案」の扱いであり強制力はありません。であればもう一歩踏み込んで、多様な意見や職能の枠にとらわれない形で事例検討が実施できないものかと考えていました。こういった「意見」は提出された事例を今後展開する上で、新たなそして大きな各職種の「気づき」となり、地域での支援を広げる効果をもたらすでしょう。
 多職種による事例検討という事業の目的は、本人の意欲や強みを引き出し、生活の継続を支えられるような支援に近づけることです。こうした多職種とのやり取りが互いの視点の共有化につながり、連携の目的に近づきます。


共通言語の活用と地域支援の充実
 そこで北見市では令和5年度より地域ケア個別会議(北見市では「自立支援型地域ケア個別会議」と呼称しています)に適切なケアマネジメント手法を活用する運用を開始しました。従来の会議と異なるのは事例提供者の支援内容や多職種による助言や意見を適切なケアマネジメント手法における「基本ケア項目(44項目)」を共通言語として用いて検討することです。
 適切なケアマネジメント手法とは、要介護高齢者本人と家族の生活の継続を支えるために、介護支援専門員の先達たちが培ってきた知見に基づき、想定される支援を体系化し、その必要性や具体化を検討するためのアセスメント、モニタリングの項目を整理したものです。
 会議では最低限の事例紹介ののち、検討したい事項を基本ケア項目に従い事例提供者が説明します。数点の多職種による質問を経て、提供者の提示した基本ケア項目や、追加するべき支援について基本ケア項目が提案されます。
 適切なケアマネジメント手法を活用して効果的だと私が感じたのが、多職種は提案する基本ケア項目の理由「なぜこの支援が必要だと思うのか」を述べるだけで意見や提案が済むことでした。
 従来であれば支援の理由に留まらず、「こういう支援をしてはどうか」という支援内容も説明が必要です。しかし既に基本ケア項目に詳しく記述されているのです。短時間で意見が済めば多くの他の意見や提案を会議で展開することが可能になり、会議の効率化につながります。それだけではなく、年間を通じて基本ケア項目の番号の頻度を調べることにより地域のケアマネジメントの課題も抽出できる副産物となります。
 会議後に事例提供者は各職種から提案された意見と採用した意見のみならず、修正した支援内容と支援結果をA4サイズにまとめ会議運営者である北見市へ提出します。これに匿名性を確保した上で事例集としてまとめ、市内の多職種へ供覧するところまで実施します。これにより、多くの関係者が課題に対する支援のバリエーションを知り、かつ適切なケアマネジメント手法の普及につなげます。
 つまり会議の目的である、①地域におけるケアマネジメントの質の向上、②地域における課題の抽出、③適切なケアマネジメント手法の普及と活用の拡大に資する多職種による取り組みに繋がるようにしています。


薬剤師の発言による多職種連携の可能性
 北海道薬剤師会北見支部による研修会で、ある薬剤師の方の発言が印象に残りました。「これまで薬剤師は薬学的観点や薬剤管理についての助言・指導に留まっていた。これからは介護現場での視点を共有して、ケースに寄り添った気づきを薬剤師として伝える事が必要なのではないか」というものです。在宅医療や在宅ケア領域において多職種が連携する目的は利用者本人や家族の自立支援と生活の質の向上です。指導よりも介護現場での困りごとである、脱水・栄養失調、転倒・誤嚥、認知機能低下、生活不活発、慢性疾患の増悪、家族との関係の介入などに対し、いわば「越境した」気持ちで発言していくことがこれからの多職種連携の姿になると気づいたのです。


 地域の多職種連携では、チームワークモデルの3つの類型のうち、急性期やICUなど医師の指示に基づき、あらかじめ決められた役割をこなす「マルチモデル」ではなく、在宅・地域ケアチームのような、多職種間で役割固定がなく、横断的な支援を行う「トランスモデル」を意識したモデルが関係者に浸透していくような取り組みを今後も進めていきたいと思います。(下記図を参照)