医療介護連携における通院困難者の課題解決を考える

在宅医療・介護連携推進事業の取り組みの中で、独力で通院が困難という通院困難者の存在が見えてきました。通院の際にバス停までが遠い。耳が遠く診察で医師や看護師の声が聞き取れない。ヘルパー不足でサービス調整が整わずケアマネジャーが同行受診をしているなど、通院という住民の診療機会の確保のためにはどんな解決ができるかについて書いてみます。ちなみに「独力で通院が困難」とは、本人の独力のみでの通院は困難で、介助や付き添いを必要とする状態としています。

【通院困難者予備軍の存在が明らかに】

令和3年12月、北見市が居宅ケアマネジャーを対象に「移動に関する調査」を実施しました(回収率82.4%)。調査の結果、居宅ケアマネジャーが担当する利用者数4,122人に対し、現在【通院困難者予備軍の存在が明らかに】
は独力で通院している826人のうち、今後3年以内に独力での通院が困難になるとケアマネジャーが予想した利用者は625人いました。このうち要支援者(総合事業対象者を含む)の割合は530人で84.8%でした(図1)。


その理由は「身体機能の低下」が圧倒的に多く83.9%で、次いで「認知機能の低下」は14.7%でした。
このままでは通院に支障をきたす方の大幅な増加が見込まれます。医療と介護が連携して取り組む「日常の療養支援」の課題の一つに「住民が医師の診療を受け続けられる」ことがあります。まさに一丁目一番地の課題です。ケアマネジャー側の予想とはいえ、通院困難が想定される高齢者がこんなに多いとは驚きでした。さて、通院困難者というと、現に通院が困難な方を思い浮かべます。しかし今回お話ししたいのは、前述した通り今現在、独力で通院している方のことです。将来、潜在的に通院困難という課題を抱える可能性のある方です。これを私は「通院困難予備者」と呼び、介護サービスや家族・友人の助力により通院している「ギリギリ通院者」とは区別しています。私が分類した例をご紹介します。 (図2)


通院困難者の課題解決は他の団体も取り組んでいます。北海道医療ソーシャルワーカー協会では令和4年度に「通院困難患者支援専門部会」を発足し活動を開始しました。札幌市を除く道内の市町村では、患者が希望しても訪問診療の医療資源が少ない場合や訪問介護などのサービスが不足しており、通院が困難になる課題が今後顕在化する可能性があります。課題が深刻になる前に講じるべき行政及び現場レベルでの対策や工夫を提案することを活動目的として活動しています。北海道介護支援専門員協会の協力を得て全道の調査も実施しました。活動の様子がNHK北海道の番組でも紹介されましたので、ご存じの方も多いかもしれません。

【減少する訪問診療医と減少する介護サービス】
令和2年12月に当センターが実施した「訪問診療及び通院困難に関する調査」では、訪問診療利用者数は191人/月で要介護認定者(n=5,021)の4%でした。このうち、自宅居住者が71人(30%)で、それ以外に居住系サービスへ入居する者の合計は152人(65%)でした。有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅や高齢者下宿です。圧倒的に「自宅以外の在宅」で訪問診療を受けている方が多いという結果になりました。(図3)


通院が困難な場合、医師による訪問診療が医療保険制度上受けられます。しかし、医師が不足する地域にあっては患者さんが希望しても訪問できる医師のマンパワーは限られます。訪問診療が受けられなければ日常の健康管理ができず、住み慣れた自宅などを離れなければなりません。北見では訪問診療を実施する医療機関は5つありますが飽和状態で、平成27年度以降では減少しています。今後増加する通院困難者に対応することはほぼ不可能と言えるでしょう。(図4)


訪問診療の需要は増えても対応できる医師が限られる一方で、身体機能の低下があっても通院し続けるためにはホームヘルプサービスなど介護サービスの確保が必要です。しかしこれも減少傾向です。北見地域介護支援専門員連絡協議会と北見市地域包括支援センター連絡協議会の協力を得て実施した「介護職不足緊急調査(令和5年10月実施)」では、ヘルパー不足等により事業所側の都合(調整に時間を要する、指定曜日が変更となった、事業所を変更した)でホームヘルプサービスの調整が困難になったとケアマネジャーが回答した割合は46.3%でした。特にケアマネジャー歴が10年以上の方はケアマネジャー歴5年未満の方より、サービス調整に以前との調整困難を感じていました。ケアマネジャー歴5年未満の方は調整が困難と感じる割合が10年以上の方より低い結果は、5年前には既に現在のサービス不足の状況が発生していた可能性があります。(図5)

【行政サービスの限界をカバーする住民主体のまちづくり】
今回のテーマは通院困難者の課題解決です。これまでの調査などを紹介してきました。介護職員不足が本格化する2040年を見据え、解決策について考えてみましょう。今回の冒頭で紹介した「移動に関する調査(北見市)」では、既に通院困難の方がどのように通院しているかについても調査しました。回答を紹介すると、知人が毎月病院まで送迎をしてくれる、近所の人が買い物代行や友人の車で一緒に買い物に出かけているなど、ご家族以外に近隣住民によって通院が可能となっているという回答がありました。ご近所の助け合いです。北見市における要介護認定率はおおよそ20%ですから、残り80%はいわゆる「元気な高齢者」です。「通院困難予備者」が「ギリギリ通院者」になっても、この80%の方々の協力を得て、いかに支援できる仕組みを地域で作ることができるかがこの課題に対する対策になるでしょう。この連載の第1回目にもご紹介しましたが、私の連携の師匠はこう主張しています。「軽度者(要支援から要介護2くらいまで)の介護は住民に任せ、中重度者の介護はプロである介護職が担う。その分だけ不足する介護職でも多くの中重度者を介護する。」という戦略です。今まで地域住民による生活支援サービスはフォーマルな介護サービスの隙間を埋めるという補助的な位置付けでしたが、いよいよ軽度者サービスの中心とならざるを得ない時代が到来するでしょう。行政が用意する公的サービスだけではとても賄えません。私たち医療・介護関係者が認識するべきは、こういった互助に基づく生活支援サービスの潜在的な地域住民への期待と、住民の持つ底力に対する信頼だと思います。私たちが住民へ相談する前から「協力は難しい」と考えていてはとうてい実現できません。さらに最も重要なことは、行政自身が「住民の主体的な活動を活用しなければ介護難民が大量発生する」と認識し、住民へ説明する「決断」をすることなのでしょう。

在宅医療・介護連携推進事業における認知症の人への扱い

介護新聞連載の第8回目です。包括的支援事業における在宅医療・介護連携推進事業は、生活支援体制整備事業や、認知症施策推進事業と並列に位置づけられています。このうち認知症施策推進事業は医療と関わりはあるものの、在宅医療・介護連携推進事業とは別に独立したものとしてオレンジカフェや認知症サポーター養成、認知症初期集中支援チームなどの取り組みを行っています。今回はこれからの人口減少の時代を迎えるにあたり、そろそろバラバラの事業ではなく、統合化へ向けた動き方をしていった方が良いのではないかという話しをします。

【在宅医療・介護連携に「認知症」が入らない違和感】
令和元年に北見市から在宅医療・介護連携推進事業を受託した際、気になっていた事を恐る恐る市の担当者(当時)へ聞きました。「医療介護連携では、認知症の人は対象にしなくて良いのでしょうか。」市の担当者はこう答えました。「認知症施策推進事業は別の事業なので実施しなくてよいです。」とても安心したことを覚えています。認知症はあまりにも課題が大きすぎて、新米コーディネーターの私の手には負えないと考えていたからです。北見市では7つある地域包括支援センターが認知症施策推進事業も受託しており、そちらで事業は実施されていました。しかし年を追うごとにこの安心は「違和感」へと変化していきました。
ある日地域ケア会議に参加した時のことです。認知機能の低下した単身高齢者の生活をどう支えるかというテーマでした。夜になると不安が募り、ひと晩で救急搬送を十何回と要請する方です。救急隊、担当ケアマネジャーや受け入れ医療機関の医師も疲労困憊していました。幾つかの作戦は実施するものの上手くいかず、結果その方は精神科の病院へ入院することとなりました。私は「重り」を心の中に抱えます。救急搬送を要請したのは周りを困らせたかった訳ではなく単に不安だった。しかし、関わりのなかでこの不安を解消することができなかった。在宅生活を支えるサービスのみならず、医療機関や医療関係者も加えて何か手を打てたのではないかという「重り」でした。さらにこんな出来事もありました。高齢者施設でのACPを推進しようと特別養護老人ホームの方を対象に会議を実施した時のことです。施設では急変時の医療処置に関する事前指示書の取り組みはしていたもののACPへの取り組みはあまり進んでいませんでした。理由を問うと「対象者は入所時に既に認知症が進行しており、本人の意思確認ができる状態ではない」とのことでした。認知機能が低下する前の本人の意思確認と、軽度の時期からの意思決定支援の必要性を感じました。ちなみに北見市における令和4年度の新規要介護認定における原因疾患の第一位は「認知症(16.1%)」です。ちなみに脳卒中は第4位で9.9%です。新規要介護者の多くが認知症の人という現実を受け止めた時、私のなかで認知症は医療・介護連携の重要なテーマの一つとなりました。

【在宅医療・認知症における連携課題は「つなぐ」から「支える」資源づくりへのシフトへ】
令和5年の4月より北見市では地域包括支援センターとともに、「地域支援事業担当者意見交換会」を計7回開催しました。地域支援事業のうち、包括的支援事業は地域包括支援センターの運営、在宅医療・介護連携推進事業や生活支援体制整備事業など多くの事業がありますが、事業の縦割りの弊害を感じていたからです。そこで将来の地域支援事業の取り組みについて、特に実効性のある包括的支援事業の具体化を各事業の縦割りを超え、かつ有機的に組み合わせた効果と効率のよい具体的な事業方法について検討しようと考えたのです。検討にあたり、認知症関連で現状の課題を調査したところ図のようなご意見を頂きました。(図1)


認知症サポーター養成など「つなぐ」人の養成や、チームオレンジなどの環境整備も重要ですが、そもそも当事者に対する直接的な施策が不足していることに気が付いたのです。気軽に外出できる場がなかったり、サポーターも高齢化していたり、当事者が発言できる機会がないなど、認知症における連携課題はサービスへ「つなぐ」役割より当事者を直接支える「資源づくり」が急務だと考えました。例えば以下のようなことが考えられます。
 プログラムの内容の更新やチームオレンジの活動を「場づくり」とともに「当事者を支える資源づくり」として支援する仕組みづくり。
 「認知症者に必要なプログラムとは何か」を考えるセミナーの企画。
 そもそもの話で「認知症キャラバンメイトや認知症サポーターの目的は何か」を考えたり、認知症対策(初期支援チーム等)のゴールは単にサービスへつなぐこと(デイサービス利用)でよいのかどうかを考え直す。
 重要なのが「認知症と診断された当事者の心の悩みはどこで解決するのか」といった「支える」資源づくりなのではないだろうか。
オレンジカフェで認知症の先輩に悩みを打ち明け、話を聞く場など「当事者を支える資源」を作る必要がありそうです。こういった目的の実現に医療機関や地域包括支援センター、介護支援専門員や関係機関が協力し、支援者や医療介護関係者向けではなく、当事者を中心に据えた認知症施策を豊かにしていく活動が必要と思われます。

【地域包括ケアシステムの構築状況の点検ツールの活用】
やはり、認知症の人に対して、対応する施策である認知症施策推進事業のみでは限界があります。他の事業も含め協力していくことの必要性は容易に理解できますが、しかし立ちはだかるのが、「事業の縦割り」です。事業の立ち上げや整備を優先するあまり、本来の「何のために」、「誰のために」行っている事業なのかが不明確なまま、事業の立上げや整備そのものが単純作業と化して担当職員や地域住民が疲弊していたり、各担当者の人事異動等により事業を開始した当時の理念やビジョンが伝承されず整備が進まない状況があります。そこで私たちが活用したのが、㈱日本総合研究所が発表した「地域包括ケアシステム~効果的な施策を展開するための考え方の点検ツール(参考資料参照)」です。このツールは、各市町村が、地域包括ケアシステムが目指す「目標」の達成に向け、介護・福祉分野やそれ以外の資源を活用した施策という「手段」が、十分な効果をあげているかを、できる限り客観的な指標を参照しつつ、自己点検する枠組みと視点を提供するツールです。特に施策レベルの点検の視点については、地域包括ケアシステムの構築で示されている5分野(医療・介護・介護予防・住まい・生活支援)の体制整備を複数の事業でどのように補い合い効果をもたらしているかを測ることができます。(図2)

全6回の意見交換会では8つの施策レベルの視点のうち、特に4つに限定して意見交換を実施しました。このタイトルと内容をご紹介します。(図3)


参加者した担当者からは以下の意見を頂きました。「生活支援コーディネーターが時間をかけ、各地でプレゼンするなどして情報を把握しているので、認知症支援推進員もその上に加わり活動している取り組みも知ることができた。」や「今できているところまでをきちんと評価することで事業担当者の気持ちが楽になった。いままでしておらず苦しかった。」縦割り事業の苦しみと統合化に期待する意見が聞かれました。
さらに「活動はしているものの、地域包括支援センターが主体となってしまっていた。少しずつ住民、ボランティアへお返しして、住民主体に取り組みに変えて行かなければならない。」や「地域の目指す姿を表現すると、この表現を住民へ説明する際にそのまま伝えやすくなると感じた。」こと。また「オレンジカフェでは、自分たちの企画したものではなく、住民が既に自主的に実施しているものがあり、これをどう把握するか、支援をどうするかというスタンスでもよいと感じた。つまりなんでもすべて我々がゼロから組み立てなくても良いのだと理解した。」など当事者中心に活動軸を転換すべきてあるという意見が聞かれました。

【在宅医療・介護連携推進事業における認知症の人への扱い】
ここまでお読みいただければご理解いただけたと思います。在宅医療・介護連携推進事業をはじめとする包括的支援事業は「地域包括ケア推進」という共通の目的があります。そのために国は様々な施策を検討し、市町村で実施するよう求めています。国から降りてきた事業を単なる「指令書」として理解するのではなく、我々の街の当事者のために、どのように協力して活用するかという視点が重要です。在宅医療と介護において認知症の人は欠かせない対象者の一人として活動を続けていきたいと思います。

参考資料
地域包括ケアシステムの構築状況の見える化に向けた調査研究事業
株式会社日本総合研究所 経営コラム
2022年04月08日 齊木大、山崎香織、辻本まりえ
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=102435