【通所介護は在宅サービスの要】
北見市には通所介護(デイサービス)が21事業所、通所リハビリテーション(デイケア)が6事業所、地域密着型通所介護が27事業所と計54ヶ所の通所サービス事業所があります。令和4年度の利用者数は延べ27,592人となり、要介護者が自宅で暮らし続けるために必要不可欠な在宅サービスの柱です。その昔私が病院へ勤務していた時、人口4万人のその地域ではデイサービスが2つしかなく、空き待ち期間が3年とも4年とも言われていました。退院後の患者さんの生活を維持していくためには退院後に機能訓練、入浴や介護者の負担軽減として通所サービスが大変有効です。そこで私は勤務先の病院へ掛け合い、通所リハビリテーション(当時は老人デイケア)の施設を作りました。モットーは「遠くて重い方から」。つまり、介護が重度で遠方のいわゆる「待機期間が長く、送迎に時間を要し、かつ対応に手間のかかる」方から利用していただきました。開設後の半年ほどの期間でしたが私はこのデイケアで働きました。汗まみれになりながら入浴後の着替えを行い、利用者から「ありがとう」と感謝され、送迎車でご自宅へお送りした際、出迎えたご家族の笑顔は今でも忘れられません。
【通所介護へ通うけど身体機能が低下する】
しかしこれから介護職員の減少とともに要介護認定者の増加でどういった現象が通所サービスで起こるでしょうか。私が想像するに、このままでは軽度者の減少と重度者の増加が起こると思います。北見市で実施した前述の通所サービス意見交換会で講師を務めた方がこんな事例を紹介してくださいました。通所介護へ通っているけれど身体機能は低下している利用者がいました。通所介護では自分の席に座り、マッサージチェアまで歩行器で1時間に1~2回繰り返し移動しており、一見活動量は保たれていると思っていました。しかしよく観察すると、立ち上がりは何かに掴まり、椅子に座る際は勢いよくドスンと座ることが多かった。つまり、一見活動していても上肢の機能だけ活用し、下肢の筋力を使う機会が少なくなっていることに気づいたそうです。そこで下肢の筋力増強と共に動作の改善も訓練として実施したところ、低下していた歩行能力は改善したという事例でした。この方のように独力で移動していても筋力低下が発生する場合があります。この事業所は理学療法士が勤務していたこともありプログラムの修正ができた訳ですが、専門職が不在の通所サービスではなかなか問題点を見つけることは困難です。一所懸命に介護しても適切な運動量と方法が確保できなければ重度化する場合があるのです。
【利用者の「納得」に重点を置いた機能訓練】
とすると機能訓練のプログラムや身体機能の評価をこまめに実施すればいいように思います。しかしここでも落とし穴があります。機能訓練は将来したいことである「目的」を達成する「方法」なのですが、訓練すること自体が目的になってしまう場合があります。それでも何もしない方よりはいいでしょう。大切なのは、訓練を継続することに対し利用者自身の「納得」への関わりに注力することです。令和4年10月に開催された「第2回北見市医療と介護の実践報告会」において報告されたデイサービスの活動が注目に値します。週1回から2回の限定された通所のなかで機能訓練をしても効果が低いため、改善を図るため通所利用日以外でも自主的な運動を実施してもらうことに取り組んだ実践報告でした。そのデイサービスでは、生活の目標や日常の課題を利用者から聴取し、その原因や訓練によって得られる成果の説明を心がけました。その上で家庭で実践できる自主練習を指導し、利用日には自宅での進捗を聴取し、身体の変化を利用者へフィードバックしました。こういった日々の取り組みに本人自身が納得できるよう配慮した結果、バランス評価を行った23名中で14名の利用者が向上、7名が機能維持されたというものです。利用者が自身の暮らし方をスタッフとやり取りを行い、何のために機能訓練をするかについて利用者本人が充分納得できた結果、通所日以外でも自主的な運動が継続して実施された好事例でした。 (図参照)
【ケアプラン目標と通所介護計画の目標の連動を】
通所サービス意見交換会で実施したディスカッションで意外な課題が見つかりました。通所介護のスタッフは、生活の目標や日常の課題を通所介護計画に反映していますが、ケアプランに記載されているケースが少ないということでした。また参加者からは、機能訓練を実施しているがその人に合った通所介護計画になっているかどうか不安である、という意見が聞かれました。さらには意見交換会で講師を務めたケアマネジャーは「ケアマネジャーは通所事業所からの情報を上手くケアプランに反映する事が出来ていない事が多いのではないか。ケアマネ主導で一方的にケアプランを立てているのではないだろうか。」という報告もありました。前述の利用者の「納得」に重点を置くという視点から考えると、将来の生活の意向とその方法がケアプランで立案されていることをしっかり反映させて通所介護計画を作成するべきですが、そうでない現状があるということが分かったのです。
【本人の納得が利用者の機能改善や自立支援につながる】
今回のテーマである「通所介護が重度化防止のカギとなる」のポイントが見えてきたでしょうか。利用者の自立支援と介護の重度化を防止するには、①本人の納得に基づいた適切な機能訓練を実施するのみならず通所利用日以外の自主訓練や通所時のメンテナンスが重要である。②ケアプランが通所介護計画へ連動できるよう、ケアプランでは生活の目標や日常の課題を記載し、通所介護事業所とケアマネジャーの情報交換を積極的に行う。この二つを実施していくことにより、現在の通所介護がさらに利用者の機能改善や自立支援につながることになるのではと考えています。このほかにも通所リハビリテーションの卒業先として通所介護が活用されることも大切です。さらには通所介護の卒業先として、地域における住民主体の体操教室やサロンなどへの移行が求められます。いずれにしても介護職員不足が拡大するなかで、少ない介護サービスで多くの利用者に対応する知恵と工夫が求められます。通所サービス事業所のみならず、行政や地域全体で通所サービスを維持し続ける対策が急務といえるでしょう。