入退院支援加算に加え「退院後支援加算」が地域包括ケアを進める

介護新聞連載の第3回目です。地域包括ケアの推進のためには医療と介護の連携が必要です。そのためには医療機関で現在実施されている「入退院支援加算」に加え、退院後の介護サービス利用者等の支援のため、医療機関に「退院後支援加算」を創設してはどうかという私案を紹介します。ちなみに退院後支援加算とは筆者の造語で、退院後の外来患者に対する生活支援を医療機関で実施した場合に診療報酬が医療機関へ支払われるというイメージです。

【入退院支援加算の功罪】
現行の「入退院支援加算」は急性期病院におけるスムーズな患者の安心した退院を目的として、平成20年度の診療報酬で創設された「退院調整加算」に始まります。その後平成28年度には早期からの退院支援と関係機関との平時からの連携推進ため入退院支援加算へと名称と要件が改められました。これにより多くの急性期や回復期の病院で入退院支援部門が誕生しました。多くの退院支援に関わる看護師や社会福祉士が雇用され、急性期病院の退院支援の充実という成果をもたらしました。退院困難な患者の早期抽出、患者・家族との面談や他医療機関やケアマネジャーらとの顔の見える連携体制の構築などを通じ、これまで一部の患者に対してのみ実施されてきた退院支援が多くの入院患者を対象にすることとなったのです。これにより急性期病院から回復期への医療機関間の転院のパイプが太くなるとともに、退院後に介護を必要とする方に対して、ケアマネジャーらと共同し退院支援が多く取り組まれるようになりました。しかしその反面、医療機関における入退院支援部門が扱う対象患者は、ほぼ入院患者に限定されてしまいました。その結果、退院後の患者に対する医療機関からの手当は繁忙する外来で対応することになったのです。つまり、医療機関における外来患者の支援部門は消失してしまったのです。もちろん現在も退院後の相談は可能です。しかし多くの医療機関では部門外の業務として整理されている場合が多いと感じます。余談ですが、この頃より医療機関における社会福祉士の求人数は激増し、現在も慢性的な人員不足が続いています。

【ケアマネジメントにおける多職種連携】
退院後、入院患者は利用者へと立場を変え、介護保険制度によってケアマネジャーが支援を担当します。例を挙げましょう。退院時は屋内外を歩いていたある高齢者が、居間で転倒し腰を打ちました。医療機関を受診したところ幸い骨折はなく打撲と診断され医師から「安静にして様子をみましょう」と言われました。日課の散歩や庭の植木の水やりを控えていたら何やら張り合いが薄れ、あまり食事も進まなくなりました。これではいけないと思っていたら歯ぐきが痛み出し、食べるのが億劫になりました。特段熱が出た訳でも体調不良という訳でもないので誰にも相談せず様子を見ているうちに屋外ではふらつくようになりました。さて、ケアマネジャーが月に1度のモニタリングで利用者宅を訪れます。ふと先月と何か様子がおかしい。医師からは「様子を見るように」と言われたのみで何か治療を要する訳ではありません。歯ぐきが痛むというが何も食べられない訳ではありません。歯科受診するかどうかは本人の気持ち次第です。このままでは廃用症候群が徐々に進行していくとケアマネジャーは考えます。本人に訪問リハビリや歯科受診を勧めるけれども「まだ大丈夫」と言われてしまいました。「自己決定」という語がケアマネジャーの頭をよぎります。


ケアマネジメントには多職種連携が重要と言われます。しかし多職種へ相談するためには利用者本人の「承諾」が前提です。私は利用者から承諾を得るためのこの努力を、ケアマネジャーにのみ課している仕組みが多職種連携の進展を阻む構造上、制度上の問題だと思っています。紹介した事例でいえば「医師からは安静と言われているが、どのような動きであれば痛みが出ず、活動量が維持できるか」や「屋外のふらつきの原因は口腔トラブルに起因する低栄養なのか。またそう判断するにはどんなことを利用者へ尋ねたらよいか、また次回受診時に医師へどのように尋ねたらよいか」など、利用者の承諾を得るための「あとひと押し」できる専門的知識や助言を多職種から得られる仕組みが必要です。いや私は今現在も相談できるし、そうすれば良いのではとおっしゃるケアマネジャーの方もいるかも知れません。しかし多くのケアマネジャーがこういう相談相手を持っている訳ではありません。また一般的に訪問リハビリテーションや訪問看護などのサービスを利用するかどうかを判断する前の段階で他の専門職種へこういった相談を持ち掛けたり、助言を得ることを介護保険制度は想定していません。サービスを担当しない専門職がサービス担当者会議に参加することはありません。

【退院後支援加算の有用性】
そこで私が提案するのが「退院後支援加算」です。これは前述のケアマネジャーが利用者へ「あとひと押し」できる専門的知識や助言を得られる仕組みを介護報酬ではなく、診療報酬上で評価してはどうかというものです。こう言うと、入退院支援加算は退院のためのものだから診療報酬での手当が妥当だが、退院後はケアマネジャーの活動として介護報酬で手当するべきだろうという意見も出そうです。ところが令和5年6月に開催された中央社会保険医療協議会で、令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会のこれまでの意見がまとめられています。今後の重点的な課題を踏まえた医療・介護連携として注目するべき記述がありました。医療においてはより「生活」に配慮した質の高い医療を、介護においてはより「医療」の視点を含めたケアマネジメントが重要だと記述されています。特に医療において「生活」に配慮した質の高い医療の視点が足りておらず、生活機能の情報収集が少ないのではないか、という指摘がありました。つまりこの意見で言うところの「配慮」とはケアマネジャーが「あとひと押し」できる専門的知識や助言を得られる機会を医療機関側で担保することではないだろうかと思ったのです。在宅生活を延伸させる最も重要な柱がケアマネジャーの立案するケアプランです。このケアプランが医療機関における多職種の知識や助言により、疾病予防と重度化予防に役立たせることが、地域包括ケア推進の要件の一つになるでしょう。(図)


むろん急性期病院のすべてにこの「退院後支援加算」が必要というつもりはありません。同上の意見交換会でも「要介護の高齢者に対する急性期医療は、介護保険施設の医師や地域包括ケア病棟が中心的に担い、急性期一般病棟は急性期医療に重点化することで、限られた医療資源を有効活用すべきである。」という意見もあることから、地域包括ケア病棟など回復期機能を持つ病院に対してのみの評価でもよいでしょう。また名称も退院後支援加算ではなく「生活体制維持加算」でもいいかもしれません。

【ケアマネジャーにとっての、かかりつけ多職種チーム】
そして医療機関は入院機能のみならず、在宅における利用者の心身機能の維持や、ケアマネジャー等からの相談を受け、当該医療機関の外来を受診した上でケアマネジャーの抱える相談に医療機関に勤務する多職種から回答・助言する役割や機能があったらどうでしょうか。これにより予防的な対処をケアマネジメントの段階で実施することにより、無用な入院を回避し在宅生活の延伸をもたらす役割をケアマネジャーとともに当該医療機関の多職種で実施することができそうです。地域包括ケア病棟などを持つ医療機関をいわば、かかりつけ医ならぬ、ケアマネジャーにとっての「かかりつけ多職種チーム」としての機能を持たせ、心身機能の低下と入院を防止する水際作戦の役割を発揮できるのではないでしょうか。

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