在宅医療・介護連携推進事業における認知症の人への扱い

介護新聞連載の第8回目です。包括的支援事業における在宅医療・介護連携推進事業は、生活支援体制整備事業や、認知症施策推進事業と並列に位置づけられています。このうち認知症施策推進事業は医療と関わりはあるものの、在宅医療・介護連携推進事業とは別に独立したものとしてオレンジカフェや認知症サポーター養成、認知症初期集中支援チームなどの取り組みを行っています。今回はこれからの人口減少の時代を迎えるにあたり、そろそろバラバラの事業ではなく、統合化へ向けた動き方をしていった方が良いのではないかという話しをします。

【在宅医療・介護連携に「認知症」が入らない違和感】
令和元年に北見市から在宅医療・介護連携推進事業を受託した際、気になっていた事を恐る恐る市の担当者(当時)へ聞きました。「医療介護連携では、認知症の人は対象にしなくて良いのでしょうか。」市の担当者はこう答えました。「認知症施策推進事業は別の事業なので実施しなくてよいです。」とても安心したことを覚えています。認知症はあまりにも課題が大きすぎて、新米コーディネーターの私の手には負えないと考えていたからです。北見市では7つある地域包括支援センターが認知症施策推進事業も受託しており、そちらで事業は実施されていました。しかし年を追うごとにこの安心は「違和感」へと変化していきました。
ある日地域ケア会議に参加した時のことです。認知機能の低下した単身高齢者の生活をどう支えるかというテーマでした。夜になると不安が募り、ひと晩で救急搬送を十何回と要請する方です。救急隊、担当ケアマネジャーや受け入れ医療機関の医師も疲労困憊していました。幾つかの作戦は実施するものの上手くいかず、結果その方は精神科の病院へ入院することとなりました。私は「重り」を心の中に抱えます。救急搬送を要請したのは周りを困らせたかった訳ではなく単に不安だった。しかし、関わりのなかでこの不安を解消することができなかった。在宅生活を支えるサービスのみならず、医療機関や医療関係者も加えて何か手を打てたのではないかという「重り」でした。さらにこんな出来事もありました。高齢者施設でのACPを推進しようと特別養護老人ホームの方を対象に会議を実施した時のことです。施設では急変時の医療処置に関する事前指示書の取り組みはしていたもののACPへの取り組みはあまり進んでいませんでした。理由を問うと「対象者は入所時に既に認知症が進行しており、本人の意思確認ができる状態ではない」とのことでした。認知機能が低下する前の本人の意思確認と、軽度の時期からの意思決定支援の必要性を感じました。ちなみに北見市における令和4年度の新規要介護認定における原因疾患の第一位は「認知症(16.1%)」です。ちなみに脳卒中は第4位で9.9%です。新規要介護者の多くが認知症の人という現実を受け止めた時、私のなかで認知症は医療・介護連携の重要なテーマの一つとなりました。

【在宅医療・認知症における連携課題は「つなぐ」から「支える」資源づくりへのシフトへ】
令和5年の4月より北見市では地域包括支援センターとともに、「地域支援事業担当者意見交換会」を計7回開催しました。地域支援事業のうち、包括的支援事業は地域包括支援センターの運営、在宅医療・介護連携推進事業や生活支援体制整備事業など多くの事業がありますが、事業の縦割りの弊害を感じていたからです。そこで将来の地域支援事業の取り組みについて、特に実効性のある包括的支援事業の具体化を各事業の縦割りを超え、かつ有機的に組み合わせた効果と効率のよい具体的な事業方法について検討しようと考えたのです。検討にあたり、認知症関連で現状の課題を調査したところ図のようなご意見を頂きました。(図1)


認知症サポーター養成など「つなぐ」人の養成や、チームオレンジなどの環境整備も重要ですが、そもそも当事者に対する直接的な施策が不足していることに気が付いたのです。気軽に外出できる場がなかったり、サポーターも高齢化していたり、当事者が発言できる機会がないなど、認知症における連携課題はサービスへ「つなぐ」役割より当事者を直接支える「資源づくり」が急務だと考えました。例えば以下のようなことが考えられます。
 プログラムの内容の更新やチームオレンジの活動を「場づくり」とともに「当事者を支える資源づくり」として支援する仕組みづくり。
 「認知症者に必要なプログラムとは何か」を考えるセミナーの企画。
 そもそもの話で「認知症キャラバンメイトや認知症サポーターの目的は何か」を考えたり、認知症対策(初期支援チーム等)のゴールは単にサービスへつなぐこと(デイサービス利用)でよいのかどうかを考え直す。
 重要なのが「認知症と診断された当事者の心の悩みはどこで解決するのか」といった「支える」資源づくりなのではないだろうか。
オレンジカフェで認知症の先輩に悩みを打ち明け、話を聞く場など「当事者を支える資源」を作る必要がありそうです。こういった目的の実現に医療機関や地域包括支援センター、介護支援専門員や関係機関が協力し、支援者や医療介護関係者向けではなく、当事者を中心に据えた認知症施策を豊かにしていく活動が必要と思われます。

【地域包括ケアシステムの構築状況の点検ツールの活用】
やはり、認知症の人に対して、対応する施策である認知症施策推進事業のみでは限界があります。他の事業も含め協力していくことの必要性は容易に理解できますが、しかし立ちはだかるのが、「事業の縦割り」です。事業の立ち上げや整備を優先するあまり、本来の「何のために」、「誰のために」行っている事業なのかが不明確なまま、事業の立上げや整備そのものが単純作業と化して担当職員や地域住民が疲弊していたり、各担当者の人事異動等により事業を開始した当時の理念やビジョンが伝承されず整備が進まない状況があります。そこで私たちが活用したのが、㈱日本総合研究所が発表した「地域包括ケアシステム~効果的な施策を展開するための考え方の点検ツール(参考資料参照)」です。このツールは、各市町村が、地域包括ケアシステムが目指す「目標」の達成に向け、介護・福祉分野やそれ以外の資源を活用した施策という「手段」が、十分な効果をあげているかを、できる限り客観的な指標を参照しつつ、自己点検する枠組みと視点を提供するツールです。特に施策レベルの点検の視点については、地域包括ケアシステムの構築で示されている5分野(医療・介護・介護予防・住まい・生活支援)の体制整備を複数の事業でどのように補い合い効果をもたらしているかを測ることができます。(図2)

全6回の意見交換会では8つの施策レベルの視点のうち、特に4つに限定して意見交換を実施しました。このタイトルと内容をご紹介します。(図3)


参加者した担当者からは以下の意見を頂きました。「生活支援コーディネーターが時間をかけ、各地でプレゼンするなどして情報を把握しているので、認知症支援推進員もその上に加わり活動している取り組みも知ることができた。」や「今できているところまでをきちんと評価することで事業担当者の気持ちが楽になった。いままでしておらず苦しかった。」縦割り事業の苦しみと統合化に期待する意見が聞かれました。
さらに「活動はしているものの、地域包括支援センターが主体となってしまっていた。少しずつ住民、ボランティアへお返しして、住民主体に取り組みに変えて行かなければならない。」や「地域の目指す姿を表現すると、この表現を住民へ説明する際にそのまま伝えやすくなると感じた。」こと。また「オレンジカフェでは、自分たちの企画したものではなく、住民が既に自主的に実施しているものがあり、これをどう把握するか、支援をどうするかというスタンスでもよいと感じた。つまりなんでもすべて我々がゼロから組み立てなくても良いのだと理解した。」など当事者中心に活動軸を転換すべきてあるという意見が聞かれました。

【在宅医療・介護連携推進事業における認知症の人への扱い】
ここまでお読みいただければご理解いただけたと思います。在宅医療・介護連携推進事業をはじめとする包括的支援事業は「地域包括ケア推進」という共通の目的があります。そのために国は様々な施策を検討し、市町村で実施するよう求めています。国から降りてきた事業を単なる「指令書」として理解するのではなく、我々の街の当事者のために、どのように協力して活用するかという視点が重要です。在宅医療と介護において認知症の人は欠かせない対象者の一人として活動を続けていきたいと思います。

参考資料
地域包括ケアシステムの構築状況の見える化に向けた調査研究事業
株式会社日本総合研究所 経営コラム
2022年04月08日 齊木大、山崎香織、辻本まりえ
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=102435

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